緊迫と胸糞悪さと理不尽さが充満した40分にも及ぶ尋問シーンの息苦しさったら無い。
本当に恐ろしい映画だった。強烈なボディブローを食らったというより、ネチネチつねられているような状態。
まず、この映画を観るにあたって、デトロイトって町がどんな所なのかを知ってから鑑賞した方が良いと思った。昨年2017年に話題になった『ドント・ブリーズ』というホラーも舞台がデトロイトだった。盲目の元軍人の爺さん宅に若者が金目当てで押し入ったけど、爺さんの強靭な身体的防御能力によって逆に追い詰められてしまうって映画だった。劇中で警察を呼ぶも、なかなか来なかったのを覚えているだろうか。要は、そういう町である。廃墟。巨大な無人地帯なのである。
繰り返される人種間の分裂
この映画はそうなる前の60年代のデトロイトで、モータウンって有名な音楽会社があるような流行の最先端でもある町のはずだったにも関わらず、廃墟化した、その原因となった暴動の一夜を描いているのだが、暴動そのものではなく、この騒ぎの中で同時に起こった、白人警官による罪の無い黒人少年三人が射殺された事件の映画である。
“白人警官による罪の無い黒人が射殺された”このワードだけ切り取れば、実は現代のアメリカとなんら変わりが無いのである。当時はニクソン政権下。ベトナム戦争が切迫しており、国内が人種間で分裂していた。50年後、2017~18年トランプ政権。再び歴史は繰り返している。戦争など社会派のビグロー監督がこの暴動を題材に挙げた理由は想像に易い。この映画を白人女性の彼女がメガホンを取った姿勢に脱帽するばかりだ。本当に意義あることだと思う。
何故デトロイトで暴動が起きたのか?
暴動のきっかけも、もともと南部で奴隷として働いていた黒人たちが、綿花農業がインドに負けて失業したために、自動車産業として反映していたデトロイトに仕事を求めて移住してきた。加えて、ロシア側の欧州の貧困民も労働力としてやってきた。黒人と白人。次第に合わなくなって衝突していく。貧富の差も出てくる。街の中心部には貧しい黒人が住み、その周囲に白人が豪邸に住むようになる。人種的に偏った土地勘になってくる。中心部は荒んでいくから、そこを支配するのが他地域の白人警官だと。警官の98%が白人だったという。その逮捕の方法が最悪で、黒人に対して殴る蹴るは当たり前、道歩いてるだけで逮捕したり、別件逮捕が日常茶飯事になっていった。それが、不満として爆発して暴動化、というわけだ。
「SOUL BROTHER」と窓に書くことで黒人的に友好的だということを示し、破壊から逃れた店もあったと言うが、「Hey、BROTHER」だとか、SOULという言葉が友好を示す語源は、この時に出来たらしい。三代目の兄ちゃん達も、デトロイトに行っても友好的と見なされるってことだ。SOUL BROTHERとグループ名に入れてる割には、こういった歴史に見向きもせず(音楽で表現せず)呑気に踊ってる姿勢は雰囲気だけに酔いしれるイキリヤンキーのようでダサイ、某賞を一億円で買ってる場合じゃ無い(笑)
映画が芸術として果たす社会的役割
もうね、観てて辛かった。尋問シーンで白人警官が黒人少年の前にナイフを投げ捨てて「拾え」と言うのだけども、何故そういうことをするのかって、拾った瞬間に正当防衛で銃で撃てるからだ。そんな、理不尽な尋問が延々と続く。遂には銃殺までされる。けど、逃げ場がない。相手が警察だから、権力だからだ。逆らえないってのは本当に恐ろしい。正義を求めて助けを乞う対象である警官が理不尽なのだから。信用の無い権力者に囲まれた絶望感というのは『エクソシスト』真っ青なホラーである。白人の若い警官もピリピリしていた黒人を恐れるようにだ。結局、人種間の先入観、不寛容・不信用は人間同士に亀裂を有無しか無い。その結末は、衝突であり、非権力側が辛酸を嘗めるしかなくなる、まさに悲劇である。
社会派が続くビグロー監督にアクション映画を撮るか質問
“アクション映画のジャンルについていえば、もっと内容の濃い作品が出てきてほしいですね。現在の私にとって、映画で社会的な話題性のあるテーマについて取り組むことに切実さを感じます。大切なことだと思います。”
流石かよ! #デトロイト pic.twitter.com/YMxaNCxLoo— ROCKinNET.com (@ROCKinNETcom) 2018年2月15日
その中で、尋問されていない黒人がいたわけだが、それを『フォースの覚醒』の主役の一人であるボイエガが演じていた。彼の佇まいが、もう素晴らしくて。ただ、SWに抜擢されたラッキー俳優では無くて、デンゼル・ワシントンの若かりし頃のような影を見いだせた。彼はもっと飛躍するんだろうなと思う。
『 #デトロイト 』は新進気鋭の黒人俳優の存在感が際立つ映画だった。『フォースの覚醒』のボイエガもそうだが。特に、ディズニーチャンネルのドラマ出演から、映画出演がないほぼ新人の #アルジー・スミス の存在感が素晴らしかった。抜群の歌唱力にも度肝抜かれた。もっと飛躍してほしい俳優さんだ! pic.twitter.com/IJw83FXGy7
— ROCKinNET.com (@ROCKinNETcom) 2018年2月15日
直接的に関係ないので、自国の法案の賛否を語るつもりはないが。日本でも、昨年2017年に可決した共謀罪の内容の曖昧さと、成立までの滅茶苦茶加減が物議を醸し出した。「ビールや弁当を持っていれば花見、地図や双眼鏡なら犯罪の下見」金田勝年法相(当時)がこんな珍論を並べた(この理屈だと、地図はスマホに入ってるし、ステージ遠いからと双眼鏡を持って東京ドームの嵐のコンサートに行くteenの女子達は全員テロリストになってしまう笑)。捜査権力の濫用を促進し得る理屈を法整備するのは危険で、もっと慎重にならないといけないと、この映画を通じて考えさせられた。同時に、こういった強烈な意見を発信できる映画監督が米国にはいることに安堵感を覚え、ビグローの勇気に脱帽する。
先日、賛否を呼んだ「ガキ使」の浜ちゃんの黒塗りにせよ、結局はもっと多角的に物事を捉えて、黒塗りが嫌だと感じる人が現実社会にはいるんだって意識を持つことで、人種間の亀裂も埋まっていくのだろうと感じた。
(文・ROCKinNET.com編集部)
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