単なる反体制とかプロテスタントとか、時代の寵児とか、そういう単純なもので評価されてるのではない。ジョン・レノンやポール・マッカートニー、ストーンズ、クラプトンでも達することが出来なかった域に何故ディランだけが辿り着くことが出来たのか!?いくつかの例を挙げて検証したい!
『風に吹かれて』言わずもがな代表曲。これって結局、ディランの影響をモロに受けている桑田佳祐なんかがよく使う「答えは風の中さ」的な抽象表現の部分に関心が行きそうだけど、この曲って歌詞全ての文末が「?」が付くんだよね。イーストウッドの監督作と同じ、聴き手に意見を求めているわけ。ディラン自身の(この頃は反体制的な彼らしい)時代への理不尽さへの怒りの意思表示なだけで、明確な回答を述べず、共感性を煽る!こういった歌詞の書き方は少なくともヒット曲の括りの中ではディランが初めてのはずだ。https://www.youtube.com/watch?v=vWwgrjjIMXA
ディランの歌詞が難解な理由のひとつとして「韻を踏みまくる」という点がある。音の響きで選んでいるだけの印象もあって、散文的なその詞は翻訳しても意味不明・・・なんだけど、この革新さも凄い。音楽の新しい表現方法を発掘した。また、これをディラン以降にやったのは、ヒップホップまで時代は飛んで、ギターを持ったフォーク、ロックの世界にはいない。https://www.youtube.com/watch?v=MGxjIBEZvx0
哲学的で難解な歌詞が多いディランにも関わらず、キャッチ―なのも見逃せない。
「答えは風に吹かれている」「時代は変わる」「あの頃のぼくより今のほうが若いさ」「どんな気がする?転がる石になるってことは」「フォーエヴァー・ヤング(いつまでも若いままで)」とか、決める所で決める。だから、ディランの歌詞は大衆の心を掴んで離さない。
これも代表曲『見張塔からずっと』なんかは、泥棒とペテン師が格差社会から抜け出せると話してる様子を見張塔から王子が見下ろしているという描写がでてきて、最後に馬が二頭やってくるっていうイマイチ意味が分からない描写で終わるわけだけど。井上陽水と山田五郎がNHKで言ってた説明を借りると、この描写は「見張塔からロバに乗った男が見えたときにバビロンが陥落したことを知る」という聖書からの引用だって言うんだね。バビロンてのは悪の権力や支配者の象徴のことなので、「革命が起こる予感」を歌ってるわけ。このように、ディランは直接的な言葉で表現しない。この曲でいうと「みんな、革命を起こそうぜ!」って言いたくなるものを、こういう聖書からの引用の物語で構成することで、逆にズシリと来させる奥深さ・・・
ここまで緻密なストーリー性を歌詞に持たせるのは偉人ディランだからこそ成せる業。
ちなみに余談だが、この曲はジミヘンがカヴァーしてて、そのカヴァーが、映画『ウォッチメン』で敵役オジマンディアスの見張塔に向かうシーンでかかるので、全ての意味が分かってると鳥肌が立つ。
今回の受賞理由に「アメリカの音楽において新しい詩の表現を創造した」とあるけど、これ以上にもまるで小説を読むかのような衝撃的・革新的な表現方法をやってのけたディランなので、詩人として、しかも音楽という限定的なカテゴライズされた枠組みの中で表現した才能と功績は常人に理解できるはずもなく、今回の評価としては当然過ぎるわけだ。
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