思い返せば12年前の2005年の夏――当時、就職活動に喘ぎ苦しむひとりの大学生の青年がいた。
就職難真っ只中の暗黒時代。不採用通知が続く中、自分らしさを見失い、果たして自分は何をしたいのか? 自分には社会の居場所は無いのか? 多感だった青年は自信を喪失していた。そんな中、彼はふと夏休み中に茨城県ひたちなか市に男三人、今も関係性の続く友人達と来ることになる。今思えば、あの時、彼があの場にいなかったら、今頃どうなっていたか・・・想像することも出来ない。少なくとも今のように、音楽という大きな支えも無いだろうし、音楽という熱くなれるものも無い退屈な人間だっただろう。
とにかく会社に媚びへつらい、個性や思想や感情を投げ捨てろ・・・そう自分に言い聞かせていた青年は、そのひたちなか市にある海浜公園のROCK IN JAPANの会場にて、人生で最も大きな衝撃を受けることになる。
自由でピースフルで好きな音楽にまみれた空間。そこにいる人達皆が笑顔で、楽しそうだった。アジカン、サンボマスター、エレカシ・・・初めて観るバンドが大半だった。青年は、それまでサザンしか聴かない人間だったというのもあって、様々なバンドの聴いた事も無い楽曲とパフォーマンスに圧倒される(帰宅後にCDを買い漁ったのだが)。そして、その日、トリを務めたサザンのパフォーマンスが、また、ワンマン・ライヴ以上の凄まじい物だったので余計に感動が増す。(時としてフェスという特殊な空間は、そのバンドを良い意味で化学反応を起こさせ、バンドが持つ本来以上のパフォーマンスに昇華させる時があるが、正しくそれだった)。青年は、自分の中に新鮮な風が流れるのを感じた。同時に、閉塞的で後ろ向きだった彼は新たな価値観を、その場で見出した。
自分らしく生きることも大事なんじゃないかって。
面接官に好かれることばかりを気にしていた得体のしれないプレッシャーが無くなるのを感じた。なんとも爽快で、救いに思えた。自分は自分で良い。背伸びしてまで他人に合わせて何になる? そう気付かせてくれたフェスの空間、(もちろん、そのフェスを運営しているrockin’onこそ最も感謝しなければならない対象だが、もはや言わずもがなではないか)何の特筆した趣味も無い青年は「自分の居場所はここだ」とさえ思った。それから12年、どんなに辛いことがあっても、病に倒れても、青年は少しずつ大人になりながら、それ以降、一年も欠かすことなく、その会場に来続けている。今年でアラフォーに差し掛かっても。
そんな様々な音楽に触れる“きっかけ”を作ってくれ、人生を彩らせてくれた桑田佳祐が、ひたちなかに、ROCK IN JAPANの会場に戻ってくることが発表された! 青年は12年間待っていた。もちろん、その間にも多種多様なバンドに興味を持ち、それぞれの楽しみ方を知ったが、ROCK IN JAPANの桑田佳祐を待っていた。桑田が務めるレギュラーのラジオ番組で「夏フェスなんか絶対に出ない」と発言してたので、どうも違和感を覚えていたが(要はダチョウ倶楽部の「絶対に押すなよ」的な逆説的な意味合い)まさか、それがロッキンで、本当に実現するとは。
本当に感慨無量だ。今や下手に音楽好きを公言している人間よりも音楽に詳しくなり、年間でも数多くのライヴに参加している。そのために働き、人生の目的が出来て、充実した日々を送っている。そんな自分が今ここにいる。12年前に影響を受けたフェスの会場、行くきっかけをくれた桑田佳祐にお礼を言いに行かねば。どんなパフォーマンスを繰り広げてくれるのか? 12年の想いを胸に、今から楽しみである。
とにかく桑田佳祐に要望を出すとすれば、フェスは一種の祭りである。祭りはアーティスト桑田佳祐の生き様そのものではないか? とことん盛り上げてほしい! 今年はソロであるが、そんなの関係ない。サザンの国民的有名曲だって聞きたい、いや、やるべきだ! マンピーでヅラ被ってほしい! 波乗りジョニーで夏を彩ってほしい! アツい夏が到来する・・・欲を言えば、桑田佳祐だって、もっとロッキンには出るべきだ。40年の長きに渡って、実質的な成功を収め続けているアーティストは桑田しかいないのだから。
最新情報をお届けします
Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!
Follow @ROCKinNETcom
この記事へのコメントはありません。