ここ数年は空前の邦楽ロックブームなわけである。「好きな音楽のジャンルは?」と聞かれると、敢えて「邦楽ロック」と“邦楽”に限定する風潮が当たり前になっている。洋楽フェスの二大巨頭であるフジロックやサマソニにおいてでさえ、邦楽歌手の比率や立ち位置が大きくなってきているのがシーンの顕著な変化だ。凄まじい取捨選択が毎年のフェスシーズン毎に行われる中、唯一無二の人気とカリスマ性で確実に人気を拡大させているのがKEYTALKである。
このバンドは特に義勝(Vo/B)の類稀なる作曲センスも然ることながら、自ら流行やシーンに歩み寄った感がある。邦楽ロック好きがヨダレを垂らして寄ってきそうな大好物“四つ打ちビート”の多用と、ライヴ栄えすること前提としたアゲ曲を定期的に発表する点においては、良い意味でしたたかな戦略家であり、その戦略が見事にシーンの心をキャッチしているから言うことが無い。「MONSTER DNACE」「MATSURI BAYASHI」「SUMMER VENUS」等、義勝が敬愛するサザンの如く夏がテーマの曲が多い。まして、ロック・バンドながら振付まであって、ライヴ会場で観客が常識のように踊り出す(これも、まるでサザンのライヴの光景のようだ)。このように、KEYTALKは地上波のテレビに滅多に出ないにも拘らず、振付や合の手然り、ネットを中心に情報がファンに広がり、フェスやライヴ会場で当たり前のように全員が踊り、クラップしレスポンスする。観客との信頼関係が強いバンドである。
今回のライヴで、その信頼関係が巨大なものになっている光景をまじまじと見せつけられた。安定のKEYTALKワールドだったのだ。無駄に力まず、緊張感も感じられず、むしろ常温でやってのける。このホーム感は、もはやフェス・バンドというレベルのものではない。アリーナ級のバンドとして段階をひとつ上に昇った証明である。とんでもない四人である。
今年2月にリリースされた新作『PARADICE』内の楽曲のジャンルのふり幅の広さには驚いたが、それを初めての横浜アリーナでやってのける演奏力の高さ。それこそバンドの成長に等しい。いきなり派手なEDMが流れ、会場後方に現れた四人。そのままファンと至近距離で前方ステージまで移動していく。バンド史上初のアリーナ規模にしてファンとの距離感を重要視する粋な計らいだ。
EDMを取り入れるという遊び心が見事に成功した「SUMMER VENUS」で演奏の幕が開き、義勝と巨匠のボーカルが力強く対峙する「ASTRO」、四つ打ちビートの王道的楽曲「ダウンロードディスコ」とアルバムの曲順通りにライヴ本編は展開していく。これを観て、彼らはここで集大成をやりにきたのではないなと察する。現在進行形のKEYTALKを見せていると感じたのだ。この横浜アリーナ公演という偉業を、大袈裟なエポック・メイキングしないつもりなのだと。
二年前の初武道館公演の時のように、KEYTALK史上最大規模でのライブへの祝祭感よりも、彼ら自身の出会いの10年を懐古的に振り返る意味合いが強かったアリーナ公演だった。デビュー当時の、小さなライヴハウスでの様子もスクリーンに映し出されたり、ライヴの合間の休憩が車中泊などの下積み時代を赤裸々に見せた。バンド名が“KEYTALK”になる前の“real”の時代に初めてやった曲「View」までも披露。ようやく、ここまで来たんだというメッセージだったのだろう。そう思えば感慨深さもある、しかし、武道館の時のような感動は無かった。それは、巨匠(Vo/G)も強調していたように、この横浜アリーナが“経過”であるからだ。彼らの凄い所は、アリーナを通過点としか捉えなかったこと。だから、過去の人気曲よりも新曲が映えるライブに見えた。本編ラストに「Oh!En!Ka!」を選んだことに表れている気がした。武道館時と確定的に違うのは、到達よりも門出のようなライヴだったということだ。
もちろん、「fiction escap」「sympathy」「金木犀」「桜花爛漫」と往年の曲でも客を煽る。何を聴かせるべきかが分かっている。武道館時に観客がスマホのライトで会場を照らす演出(あれは事前にスタッフからの指示があったのだが)で、思わず巨匠がウルッときた(?)「バイバイアイミスユー」も今回のアリーナ公演でも非常に重要な役割を果たしていた。武道館ではサプライズを受けたから、今度は自分達がサプライズする番だと、会場の後方に現れ、このKEYTALK史上最も美しいメロディであろうミディアム・バラードを歌う。観客もそんな粋な計らいに「Lalalalala・・・・・・」とハーモニーで応える。先でも言った強い信頼関係が広がる感動的な場面だった。そこから一転、新曲「黄昏シンフォニー」や「YURAMEKI SUMMER」「太陽系リフレイン」「MATSURI BAYASHI」とカオス状態まで観客の沸点を最高潮にまで上げる。ライヴ自体に様々な表情があり、物語があり、様々な感情が相見える。どんな感情をもKEYTALKの楽曲群は拾ってくれるのだ。凄いバンドとなったものだ。次の目標は「いつか日産スタジアムや東京ドームで」と言った巨匠。留まる事を知らない彼らなら、果たして夢物語とも言えない目標なのかもしれない。
武道館の時のようになキャリア史上最大規模でのライブへの祝祭感よりも、出会いの10年を懐古的に振り返る意味合いが強かったアリーナ公演だった。しかし、巨匠は経過であることを強調した、だから人気曲よりも新曲が映えるライブだった。到達よりも門出のような横アリだった。 #KEYTALK pic.twitter.com/ZhWOauvZH3
— ROCKinNET.com (@ROCKinNETcom) September 10, 2017
ちなみに、個人的なことで申し訳ないが。座席が本当にステージと近い所だった。非常に貴重な体験をさせて頂けたことに感謝しかない。ありがとうございます。ライヴというのは見る座席によって感じることも異なってくる。そのどれもが素晴らしい体験なことに間違えはないが、演出の一酸化炭素が顔にかかる位置で見れたこと、武正が10cm目の前に来てくれたこと、他のメンバーが2m内に来てくれたこと、まさしく夢心地だった。最高の体験だった。
2017/09/10@横浜アリーナ セットリスト
M-1 Summer Venus
M-2 ASTRO
M-3 ダウンロードディスコ
M-4 fiction escape
M-5 sympathy
M-6 SAMURAI REVOLUTION
M-7 金木犀
M-8 HELLO WONDERLAND
M-9 桜花爛漫
M-10 茜色
M-11 Boys & Girls
M-12 OSAKA SUNTAN
M-13 Monday Traveller
M-14 View
M-15 YGB
M-16 マスターゴッド
M-17 color
M-18 One side grilled meat
M-19 バイバイアイミスユー
M-20 黄昏シンフォニー
M-21 プルオーバー
M-22 ミルクティーは恋の味
M-23 LOVE ME
M-24 YURAMEKI SUMMER
M-25 太陽系リフレイン
M-26 MATSURI BAYASHI
M-27 Oh!En!Ka!
アンコール
En-1 セツナユメミシ
En-2 スポットライト
En-3 MONSTER DANCE
(文・ROCKinNET.com編集部よっしー)
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