映画レビュー

余計な台詞すら削ぎ落とし、戦争を臨場体験させる『ダンケルク』こそ真の戦争映画だ!

© 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.


21世紀の娯楽作の王者ノーラン監督が戦争映画を撮るとこうも凄いというのを見せつけられた。ここまでリアリティな戦争映画は見たことが無い。それも、スピルバーグが『プライベート・ライアン』で描いた戦争のリアリティとは違う。あの作品も後の戦争映画の描写に多大な影響を与えたにせよ、弾道が正面に迫ってくるように描いた、その視覚的過激さは、言い方は悪いが、娯楽的だった。

これまでの戦争映画は正直酷かった

戦争を描くには相応の信念と覚悟が必要だと思うが、実際のところ映画である以上、多少のエンターテイメントも加えられているものが多い。最たる例は『パールハーバー』か。水牛みたいな面したベン・アフレックとケイト・ベッキンセールの恋愛物語を戦争そっちのけで描いた映画、浅はかさの極みだ。リドリー・スコットの『ブラックホーク・ダウン』も、まるで銃撃ゲームで酷かった。ソマリアの人々がまるでゾンビのように撃たれる、バイオハザードと大差ない戦争描写に正義の意味を問いたくなった。

説明を回避したことで生まれたリアリティ

しかし、この『ダンケルク』はこれらと異なる。説明が一切されていない。史実であるがゆえ、この先にノルマンディー上陸作戦でドイツが劣勢になることは分かっていながらも、この映画で描かれている瞬間の、英国軍と仏軍が窮地に追い込まれている空間をありのままに描く。事前に世界史を勉強していなかったので、なぜ英国艦隊は助けに来ないのか? チャーチルの意向は何なのか? どうしたらいいのか? 何も分からない。それこそ、ノーラン監督の狙い通りだったのだろう。この映画は正に臨場体験である。スクリーンいっぱいに映し出される大海原、耳をつんざくような大爆撃音など、視覚と聴覚で訴える。
だから、映画中の台詞が異様に少ないことも納得が出来る。そんなペラペラと喋る戦争映画は嘘くさい。
沈黙の緊張感。主人公たちが放置されたオランダ船に隠れている時に、その船がドイツ軍の射撃練習の的になった時の緊張感。銃弾一発の恐怖を描いたノーランは流石だ。息苦しさの中で、とにかく、この場から早く逃げたいと観客の俺にすら思わせたノーランの完全勝利である。

ノーラン監督、実はハリーを知らなかった

image sourse:http://www.mirror.co.uk/3am/celebrity-news/harry-styles-likes-very-particular-10248888


ノーラン監督自身はハリーについては、さほど知らなかったという。しかし、奇しくもこの映画の最大の話題となってしまったワン・ダイレクションのハリー・スタイルズの出演だが、存在感も演技もかなりいい感じだったと思う。『パイレーツ・オブ・カリビアン』のキース・リチャーズのようなアクの強さも無く。これだけのスターであり、主要人物ながら、妙な存在感も出さずに、脇に徹しられたことが驚きだった。これが映画出演最後というが、もう少し彼の姿をスクリーンで観てみたいものだ。
主人公を演じた新人のフィオン・ホワイトヘッドの何とも言いようのない表情も素晴らしかった。この映画は台詞が無い分、表情で持たせるという難易度の高いことをやってのけた新人に拍手だ。

(文・ROCKinNET.com)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。
引用の際はURLかリンクの記述必須。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. 安室奈美恵の引退への想い~安室という現象が現代の日本女性像を変えた~
  2. RADWIMPS「HINOMARU」が物議!ポップ・ソングの右傾化に不自然さを感…
  3. 【速報ライヴレポ】ハリー・スタイルズ初ソロ来日公演を間近で観た!彼こそ時代の寵児…
  4. 【追悼】アメコミ界の巨匠スタン・リー逝去~映画カメオ出演を振り返る~
  5. 世界で大ヒット中の映画『スパイダーマン:ホームカミング』の主人公トム・ホランドの…

関連記事

  1. 映画レビュー

    【映画鑑賞日記】ナイスガイズ!

    今年度の賞レースを独占している『ラ・ラ・ランド』で主演を務めた…

  2. 映画レビュー

    『カメラを止めるな!』は確かに面白い!当たるべき所に陽が当たった喜び!

    ※注意※当記事はネタバレしておりますので、未鑑賞の方は絶対に読…

  3. 映画レビュー

    『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』飽和を恒例に変える流石のクオリティ!

    シリーズも五作目となり、いよいよ飽和期に差し掛かってもおかしくない…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

[PR]
  1. ハリウッド

    今夏最大の話題作『パワーレンジャー』に同性愛描写で再び波乱の予感
  2. ライブレポート

    【ライヴレポート】ポール・マッカートニー(2018/11/1@東京ドーム)
  3. 音楽

    アリアナ慈善LIVE「One Love Manchester」を観て感じたこと
  4. ニュース

    【フジから若者が消えた?】フェスの“聖地”フジロックが中高年化している問題。若者…
  5. 邦楽

    【全曲レビュー】桑田佳祐の最新作『がらくた』が凄過ぎた!大衆音楽ここに極まり!
PAGE TOP