ケンドリック・ラマーがU2とコラボし、風刺の効いた衝撃的なパフォーマンスで幕を開けた今年のグラミー賞。ノミネートされた時から、その“黒人優位”な傾向が如実に表れ、アメリカの音楽界も劇的な変化を見せる、そんな歴史的な意味合いを持ったアワードになるだろうと思っていたが、実際はどうにもむず痒い結果で終わったように感じる。
ブルーノ圧勝!主要部門から独占状態!
まずは、ブルーノ・マーズが新人賞を除く主要部門を独占。ノミネートされていた全6部門すべてに於いて受賞、正に“ブルーノ・ナイト”となった。
しかし、これは今年最大の番狂わせでもあった。ほとんどの米音楽媒体や評論家たちは、ケンドリック・ラマーの傑作『DAMN.』が受賞すると予想していたからだ。もしくは、昨年の主要メディアが選出する「ベスト・アルバム」で、そのケンドリックと人気を二分していた、ロードの『Melodrama』も(「#metoo」など女性のステータス向上運動の後押しもあり)十分に最優秀アルバムを獲得する可能性があった。その二作品を押しのけてまで、ブルーノの『24K magic』が受賞するのは意外中の意外だった。
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2017年はケンドリックとロードの一年だった!
先でも述べたように、昨年2017年に評価されたアルバムはケンドリックとロードだった。
米英の主要音楽メディアが昨年末に発表した「ベスト・アルバム」のランキングは下記の通り。
【米Rolling Stone】ケンドリック1位。ロード2位。ブルーノ圏外。
【米SPIN誌】 ケンドリック1位。ロード4位。ブルーノ圏外。
【英Q誌】 ケンドリック1位。ロード4位。ブルーノ圏外。
【英Uncut誌】 ケンドリック3位。ロード18位。ブルーノ圏外。
【英Mojo誌】 ケンドリック7位。ロード圏外。ブルーノ圏外。
【米ピッチフォーク】ケンドリック1位。ロード2位。ブルーノ圏外。
【英ガーディアン紙】ケンドリック2位。ロード4位。ブルーノ圏外。
【米Stereogum】 ケンドリック2位。ロード1位。ブルーノ圏外。
【Consequence Of Sound】ケンドリック2位。ロード1位。ブルーノ圏外。
上記のように各主要媒体が行った年末のベスト・アルバム選出で『DAMN.』を1位に選んだ媒体は、この他にも合計48もあり、ぶっちぎりのトップであること。2位でも28以上あったとのこと。米評論家たちの点数を平均化しても、1位はケンドリックで、2位はロードであった。
音楽界の最高権威と言われているグラミーだけが異なる評価を下した。
どうやら、音楽性や芸術性よりも、大衆受けR&Bに会員たちの票は偏向したようだ。
しかし同時に、グラミーが異質な賞であることを自ら証明しているような、そんな気がしている。
2017年最も売れたのもケンドリックであった
このように、ほぼケンドリックとロードが独占した年だった。ブルーノは箸にも棒にも掛かってない。
また、ケンドリック・ラマーが所属するレーベルのTwitterによれば、ストリーミングも合わせた計算によると2017年のアルバム売り上げは以下の通りである(12月25日現在)。
1位 ケンドリック・ラマー『DAMN.』2,603,000
2位 エド・シーラン『÷』 2,448,000
3位 ドレイク『More Life』2,161,000
4位 テイラー・スウィフト『Reputation』1,897,000
5位 ブルーノ・マーズ『24K Magic』1,546,000
旬のブルーノ・マーズも売れているのも当然だが、それ以上にケンドリックは売れていた。大衆性という点でもケンドリックも該当するだろうが、彼の音楽は風刺であり、単なる大衆ポップではないことが重要なポイントである。音楽性と時代性に富んでいる作品であることを忘れてはならない。
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視聴率低下に悩むグラミーの混迷が如実に見える
今から約10年前から、グラミーは視聴率低下に悩んでいた。しかし、それでも大衆の支持以上に、楽曲の芸術性や音楽性を重視することで自らの権威を守ってきた賞である。それでも、歯止めが効かない視聴率と若者からの関心度の低下を危惧し、次第にヒット曲をノミネートさせていくようになる。今回で言う「デスパシート」みたいなもんだ。しかし、その大衆に媚びた姿勢が変な方向に偏っている。
今や米国のヒット・チャートは、断然HIPHOPが強い。それでも、グラミーの投票はRAPやHIPHOPに集まらない。どこか保守的なのである。HIPHOPは風刺が根ざした反社会的な音楽である。グラミー会員の中にも、白人至上主義者は多くいるだろうし、共和党員も多いだろう。そうなると、票を独占するのは困難である。そういう意味においては、ブルーノは当たり障りないR&Bとして調度いいのではないか。しかも、大衆性も備えているし。
大衆の興味を引くにはブルーノが適していた?
何も、ブルーノ批判をしたいわけではない。むしろ、筆者は彼の大ファンであるが、あれだけ大衆ポップに手厳しかったグラミーが、こうも世間の評価から逸脱して、社会性に富んだケンドリックの『DAMN.』よりも、ブルーノのようなポップ性を優先したのに非常にむず痒い思いがする。昨年のビヨンセが受賞を逃した時と同じ感覚である。
この違和感たるや、むしろ、グラミー会員の多くが黒人音楽(RAP/HIPHOP)を評価対象として捉えていないことの証明をした結果なのではないかとさえ思えるのだ。白人じゃない有色人種のブルーノに受賞させても何の変革もされていない。HIPHOPやRAPなど黒人音楽そのものに光を当てないと意味はないではないか?
ケンドリックが最優秀アルバムのトロフィーを掲げた光景が幻に終わったことに、ある種の幻滅をせざるを得ない。こういうことを繰り返していると、グラミー賞そのものの権威が揺らいでいくのではないかと思うのだが・・・・・・
(文・ROCKinNET.com編集部)
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