映画レビュー

【音楽だけ】MVのような薄っぺらい映画『グレイテスト・ショーマン』なんかで感動してる場合じゃない

(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation


薄っぺらい映画だった。こういうのを観て「夢を追うことの大切さを学んだ」とか「究極のエンターテイメントだ!」とか言えるくらい寛容なのか、浅はかなのか、そうやって表面上をしゃぶしゃぶしてるのって・・・・・・楽でいいよね^^;

まず、残念なのは、主人公が大衆演劇のキャストを選ぶ際に、マイノリティを集める訳だ。けど、少数派の描き方も雑なんだわ。多様性の受容という2016年から米国が抱えるべきテーマをしっかりと描けているにも関わらず、掘り下げない。マイノリティの苦悩や葛藤すら、主人公の成り上がり物語の付属品になっており、差別からの脱却、スポットライトを浴びた時のカタルシスが何も感じない。惜しい、惜し過ぎる。

作家として・映画としての意見がない

この映画で延々と語られているのは「芸術とは何か?」という非常に哲学的な部分。俺も美大出だから分かるよ、うん、朝まで安い居酒屋で安い酒飲みながら、浅はかな芸術論を同級生とぶつけ合っては喧嘩してたよ。自分の中でも闇歴史だけどさ。「大衆性を優遇するのが正しいのか、芸術性を高めるべきなのか?」ってね。要は、サザンを聴くか、モーツァルトを聴くかの議論がされるわけだが、サザンな大衆演劇を格調高い階級の人々から蔑まされて見られても、「興行が成功すれば勝ち!」みたいな展開を見せる。この意見には賛同できるけど、この映画ではサザンもモーツァルトも、どちらもが成功しちゃってる。映画の意見としても、どっちでもいいんだ。



挙句の果てには最終的に“人々が喜んだものが真の芸術である”という格言めいたメッセージで強引に締め括る。いや、そうなんだけどさ。それを言ったら何でもいいじゃん。要は、作家性が無いんだわ。この監督の意見が聞きたいわけ。それが、物語に深みを出すのに。
例えば、監督は違うが、同スタッフで制作したらしい『ラ・ラ・ランド』は大衆音楽を批判し、自分が本来突き詰めたい(ジャズ道)みたいなものを肯定していたように。その思想の生き様の先には何があるか・・・・・・そこが見たかったのだが。だから、本作も色恋を描いているけど、『ラ・ラ・ランド』のような艶のあるラストは迎えてない。

主人公もね、劇場も無くなったという中で、Barで落ちるだけ落ちといて、仲間が来たら、急に歌い出して「皆を喜ばそう」なんて、結局はサザンに戻るわけだけど、立ち直りが早い、なんかアホな男に見える(笑)
この主人公の生き様は非常に興味深かった。野心の塊のような男で、成功していく中での上昇するタイミングや行動力には、なるほどなと思うところあったけど、結局は冒頭からエンディングまで急ピッチな苦悩無き成功描写。苦悩あってもサッパリ解決していく。トントン拍子。そんなに演劇立ち上げるってのは簡単なことではないはず。そこに浅さを感じずにはいられないわけで。

楽曲力は流石である!

ただ、この楽曲力、パフォーマンス力は何なんだろうか?
もはや圧巻だ! 流石はヒュー・ジャックマン。やはり、彼はX-MEN『ローガン』よりも、こういったミュージカル畑で何かやらせた方が断然輝く。トニー賞を受賞し、2009年のオスカーの司会も歌とダンスで魅せた実力者(リーマンショックで世界中が貧しく予算が掛けられなかったにも関わらずだ)。
心も踊る楽曲のクオリティの高さ。最近はデ・ニーロとお下品コメディとか出ちゃって方向性があやふやだったザック・エフロンも古巣に帰ってきて、本来の彼の姿が垣間見れて嬉しい。『ラ・ラ・ランド』もそうだったが、冒頭から有無言わさずに魅せつける圧倒性。一気に映画に引き込む。それを繰り返しす。芸達者な役者陣が、歌って踊って、空を舞い、その空間を隙間をぬって立体的なカメラワークで魅せる。もはや、一大スペクタクル。大衆演劇の凄味を立証しているシーンだ。もはやMVだけど。この映画は、これだけでも成立してればいいって、そういうことなのかもね。

(文・ROCKinNET.com編集部)
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