2018年3月30日。九段下の駅出口を出ると北の丸公園周辺の外堀に満開に咲いた桜は、これまで幾度となく見た同景色と違って、まるで異空間。ピンクに彩られた景観が見事で、春の訪れの祝祭的な空気感が心地良かった。
そんな日に日本武道館は朝から多くの若者で賑わっていた。My Hair is Badが遂に武道館のステージに立つ日が来たからだ。物販求めて、開演が19時からだというのに朝の6時から並んでいる強者までいるというから驚いた。SNSでその情報を得た俺もそそくさと九段下に向かった。予定よりも数時間早く。想像以上の長蛇の列。4時間弱並んだ。マイヘアの晴れの日に、それだけの人間が来たということだ。もちろん、皆が皆、祝祭的な気持ちを持ってだろう。春の陽気も相まってか、特別な一夜が始まるんだなと肌で感じ取った。
バンドにとって武道館公演は特別なものである。けど、最近はとりあえず楽器持ってるからロック・バンドと言ってるようなバンドの公演も多いことは確かだ。作り込まれた演出、炎が立ち上がり、紙テープが舞い、スモーク噴射・・・・・・とにかく、初武道館を大きなエポックにしようと、あれやこれやとステージを過剰に派手にしていく。それが悪いとは言わないけど、この日のマイヘアのステージを観てしまうと、「ロック・バンドとは何か?」「ライヴとは何か?」という根本に立ち返った気がして感動すら覚えた。
余計な演出はいらない。ステージ袖から三人歩いて登場。楽器を以て演奏する。地味な幕開けだった。けど、ライヴ・ハウスってそういうものじゃん。丸腰でギターを鳴らして思いの丈を叫ぶスタイル。椎木は何度も“ロック・バンド”という単語を口にした。挨拶代わりに「ロック・バンドをやりにきました」と言い、「ロック・バンドが仕事なんでこれからも続ける」と決意表明をしたりと。
「ロックとは何か?」なんて人それぞれ思うところがあっていい。けど、あまりに軽々しくなってる昨今のロック・バンドの定義。敢えて自分達をロック・バンドと称するマイヘアに並々ならぬ覚悟を感じた。そして、この日、椎木はそれを見事に再現させてみたのだ。他のどのロック・バンドよりも。その姿は、現代ロック・バンドの寵児そのものだった。
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明らかに椎木は武道館の空気に飲まれていた。「日本武道館さんよ」と武道館に語りかけ始める椎木。「最近は誰でも立てる場所になって価値が下がってると思ってたけどさ、流石に緊張してる」と。そう、意外にも椎木は緊張でガチガチだった。だからこそ、失敗もあった。マイクが落ちたり、ギターのチューニングを間違えたり。けど、それこそ人間味があって安堵感すら覚える。先述のような過剰な演出で塗り固められた、台本通りの武道館は面白くない。生身の人間が、音をかき鳴らしてる、それこそ、ロック・バンドのあるべき姿だ。そんな勇士に、涙腺が緩む思いだった。こんなエモい存在が日本ロック界に出現し、成功を収めている事実が嬉しい。椎木のルックス目当ての女性ファンが多いと聞くが、椎木はそんなアイドル的な偶像ではない。
よく初武道館には魔物がいると言うが、マイヘアの三人は、魔物と闘っているように見えた。飛んだり跳ねたり、膝を付いて上半身を仰け反ったり、全身で音楽を奏で、叫んだ。気迫すら感じた。誰のためにやっていたのか? おそらく椎木は頭の中が真っ白だったに違いない。観客を盛り上げようとか、そんなエンターテイメントを目指していないことは察した。だからと言って、自分のためでもない。とにかく、“やりのける!”これだけだったに違いない。最後の曲の前に、「これまでの記憶が無い」と言っていたが、それは見ていて、よく分かった。でないと、あそこまで鬼気迫るステージは出来ない。その姿は、今まで見た、どのバンドの武道館公演よりも心に突き刺さるものだった。完全ではないかったけど、完璧だった。何も意図していない。MCも何を言おうかなんて考えていない。言葉と言葉の間の空白が長いことが物語っている。リアルな人間の姿だ。予定調和でないから、心に響くのだ。
椎木のMCは、まるで詞である。「愛を歌う? そんなんじゃない! 俺は命を歌いたいんだ!」と言い放った。それは、「俺にもあなたにもあるものだから」と。それが何を意図するか、それこそ初武道館にして二日間もやってのける支持を集める由縁だと感じた。恋をして失恋して、仕事して悩んで、成功して失敗して、椎木の描く楽曲は、誰もが経験する普遍性がある。それらは、命あるからこそ経験できる事柄。それを直球に描く。最近のロックにも多い、応援歌とかポジティブ・ソングとかじゃなくて、生活の一部。臭いとか、体温とか、触覚(空気感)とか、そういうものさえ感じられる、リアルな楽曲。だから、こうも共感される。聴く者の胸の奥の奥にまで響く。
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昨年2017年リリースの最新作『mother』中心のセットリストになるかなと思いきや、前作である傑作『woman’s』や『narimi』それ以前の楽曲も演奏されたが、どれもが際立っているのが凄い。楽曲の新旧に差が無い。「アフターアワー」「熱狂を終え」と疾走感溢れる楽曲で開幕し、会場は開始早々にフルモード。
「悪い癖」のような意外な曲のサプライズ・プレゼントもあり、人気曲「元彼氏として」では大盛り上がりだし、背景の垂れ幕に星が浮かび上がった「戦争を知らない大人たち」は壮観だったし、「いつか結婚しても」での大団円さは圧巻だったし。新潟時代にレーベルにスカウトされたきっかけの曲「声」も披露するなど、一応は武道館公演らしい一面もあったのも良かった。
緊張気味でいつもよりも礼儀正しい椎木が、後半“らしさ”を取り戻した時に演った「告白」でアリーナのキッズ達がダイブする光景が垣間見られた。怒られるかも知れないが、嬉しかった。表向きは禁止となっているが、その気持ちわかる。
個人的に大好きな「接吻とフレンド」と最新作『mother』の中でもお気に入りの「燃える偉人たち」が聞けなかったのが残念で仕方なかったが(翌日には演ったというから尚更)、それは今度何処かでってことで。
この武道館はツアーの中に組み込まれていた。単独の武道館公演じゃない。ツアーの過程である。そういうところもマイヘアらしい。「武道館の次は東京ドームだぁ~!」ではない。バンドの成長物語に酔いしれるロック・ミュージシャンは多いけど、マイヘアは違う。最後にも、「またライヴ・ハウスで会おう」と言ったように。彼らは、ロック・バンドである現状を歩んでいるだけだ。それに付いてくる人数や規模が大きくなろうが。彼らは彼らなりの手段で歩んでいる。こんな愚直なバンドマン、そうはいない。とことん、かっこいい。
丸腰でギターを鳴らして思いの丈を叫ぶ。失敗もあった。逆に、生身の人間性が感じられて涙が溢れた。マイヘアは作られたバンドでは無い!緊張気味の椎木が武道館の魔物と真正面から闘う気迫に満ちた、これぞロックライブだった。近日中にレポ書きます!#マイヘア#マイヘア武道館#MyHairisBad pic.twitter.com/A5eILmWJCG
— ROCKinNET.com (@ROCKinNETcom) 2018年3月30日
セットリスト
2018/03/30(Fri)@日本武道館
M-1 アフターアワー
M-2 熱狂を終え
M-3 グッバイ・マイマリー
M-4 ドラマみたいだ
M-5 赤信号で止まること
M-6 関白宣言
M-7 真赤
M-8 運命
M-9 悪い癖
M-10 白熱灯、焼ける朝
M-11 卒業
M-12 復讐
M-13 革命はいつも
M-14 クリサンセマム
M-15 元彼氏として
M-16 ワーカーインザダークネス
M-17 フロムナウオン
M-18 戦争を知らない大人たち
M-19 永遠の夏休み
M-20 幻
M-21 声
M-22 優しさの行方
M-23 告白
M-24 噂
En-1 いつか結婚しても(チューニング ミス)
En-1 いつか結婚しても
En-2 音楽家になりたくて
(文・ROCKinNET.com編集部)
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