現地時間2018年5月19日、第71回カンヌ国際映画祭で是枝裕和監督の『万引き家族』が最高賞パルムドールを受賞するという快挙を成し遂げた。これは1997年今村昌平監督の『うなぎ』以来、実に21年ぶりとなる。
これまで、日本人監督作品がカンヌでパルムドールを受賞した作品は下記の通り。
・1954年 衣笠貞之助 『地獄門』
・1980年 黒沢明 『影武者』
・1983年 今村昌平 『楢山節考』
・1997年 今村昌平 『うなぎ』
上記のように過去に4作品。3人の映画監督が受賞している。それに続く快挙となる。
これまでカンヌのパルムドールは、古くは『第三の男』『男と女』『タクシードライバー』『地獄の黙示録』『セックスと嘘とビデオテープ』『パルプ・フィクション』など有名な作品も受賞している。2000年以降は『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『戦場のピアニスト』『華氏911』『愛、アムール』などオスカーにもノミネートや受賞された作品が受賞している。
カンヌと言えば、ヨーロッパでは映画監督として絶大な地位を誇る北野武の『アウトレイジ』第一作が、第63回同映画祭では最低点を付けられたこともあった。北野監督の作品は1999年に『菊次郎の夏』がパルムドールを競うコンペティションに出品されたこともあり、「あの『菊次郎の夏』を撮った監督と同一人物だと思えない」と、その暴力描写に途中で席を立つ批評家も多く、拒否反応を示された。
ちなみに他の日本人の受賞は
・1960年 市川崑 『鍵』グランプリ(最高賞パルムドールの次点)
・1963年 小林正樹 『切腹』グランプリ
・1964年 勅使河原宏 『砂の女』グランプリ
・1965年 小林正樹 『怪談』グランプリ
・1978年 大島渚 『愛の亡霊』監督賞
・1987年 三國連太郎 『親鸞 白い道』審査委員賞
・1990年 小栗康平 『死の棘』グランプリ
・1997年 河瀬直美 カメラ・ドール(新人監督に贈られる賞)
・2004年 柳楽優弥 『誰も知らない』主演男優賞
・2007年 河瀬直美 『殯の森』グランプリ
・2013年 是枝裕和 『そして父になる』審査委員賞
このあと大変なことになるなど知る由も無く
子役たちと和気あいあいとする松岡茉優。
2004年『誰も知らない』でもそうだったっけな#カンヌ #万引き家族 #是枝裕和 pic.twitter.com/2xm14gqx4P— ROCKinNET.com (@ROCKinNETcom) 2018年5月19日
上記のように、是枝監督は受賞歴も多く、カンヌに好かれた監督である。史上最年少での主演男優賞受賞となった柳楽優弥の『誰も知らない』も是枝作品。今回を含め、三度のカンヌ受賞となる。
映画を通して、家族という形を模索し続けた是枝監督。作品の根底にある、愛とか絆については毎回考えさせられる。本作を観るのも非常に楽しみだ。
是枝監督は、この作品についてのインタビューで「日本は経済不況で階層間の両極化が進んだ。政府は貧困層を助ける代わりに失敗者として烙印を押し、貧困を個人の責任として処理している。映画の中の家族がその代表的な例だ」と述べている。格差の問題。日本の経済システムから外れた者の救済がなされない先進国の闇。そこに光を当てたことが流石としか言いようがない。
「日本の恥を世界にさらした」っていう意見があるけどそれは日本的な恥やメンツの概念であって、むしろ「万引き家族」のような映画は「日本には自己デバッグ機能がある」と判断される好材料になる。
— こなたま(CV:渡辺久美子) (@MyoyoShinnyo) 2018年5月20日
カンヌ獲った『 #万引き家族 』を日本の恥をさらしたとか幼稚な理屈で左翼とか言ってる自称愛国馬鹿なネトウヨには掛ける言葉もないほど哀れんでるZ
自国の経済システムから外れた弱者にスポットライト当てて問題提起した視点こそ救済という愛国に繋がる。この映画は家族と絆、愛の物語だっつの。— ROCKinNET.com (@ROCKinNETcom) 2018年5月20日
カンヌ国際映画祭は言わずもがなだが、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭と並ぶ、世界三大映画祭である。審査員は著名な映画人や文化人によって構成され、今年の審査委員長はケイト・ブランシェットが務めた。
ケイトは今回の授賞理由を次のように語っている。
「わたしたちは皆、どれだけ俳優たちの演技と監督のビジョンが『万引き家族』においてかみ合っているかということに、完全に圧倒されたんだと思います。並外れた映画です」
引用:www.cinematoday.jp/news/N0100950
また、審査員である『ブレードランナー2049』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督も「エレガントで深い脚本で、強く心を動かされました」と賞賛していた。下馬評も高く、受賞が発表されたら会場中から大歓声が上がったという。
是枝監督は受賞後のコメントとして「重いです。これを頂くことは監督としても重い出来事で、この先どういうものを作っていくか、恥ずかしくないものを作らなければいけない、という覚悟をしています。これで企画が通りやすくなるので(笑)この賞は大きなエネルギーになると思います。」と今後の作品作りの励みになると言及している。
ま、敢えて触れる必要もないが、一部では今回の受賞に対して批判的な意見もあるというから驚きである。自称愛国者を名乗るネトウヨと呼ばれる者たちの主張は、万引きという犯罪を描くことで日本の恥を世界に広めていると、作品の本質を全く理解していないトンチンカンなことを言っているようだ。
「日本人は万引きしない!是枝監督は反日だ!」
「万引き家族なんて最低なタイトルの日本映画が最優秀なんてどう考えても中国韓国の差し金だ」
反日と言えば何でも成立する単細胞な意見。今回の件とは無関係な国名が急に出てくる不可思議。こういった日本映画の快挙に水を差す意見はみっともないと忠告しておきたい。日本万歳! やったぜ、日本映画! と、自国の映画の快挙に喜べない時点で、それこそ彼らの言う反日的だと個人的には思う。
だから、変なところでケチを付けずに、快挙を成し遂げた我が国の映画を素直に讃え、少なくとも鑑賞した上で議論を交わそうではないか?
(文・ROCKinNET.com編集部)
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