来年2019年に行われるアカデミー賞についてハリウッド界隈がザワザワしている。事の発端は、「人気作品部門」を設立するという、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーの発言である。話題性とか興行成績など、映画のアート性やメッセージ性に関係なく、純粋に大衆に受け入れられたか否かで量られる賞。言ってみればMTVムービー・アワードのような賞だ。
もともとアカデミー賞の作品賞は長い間5作品限定だった。しかし、2008年のオスカーで、世界的大ヒットを飛ばし、その作品の質の高さからアカデミー賞候補は確実視されていた『ダーク・ナイト』が作品賞にノミネートすらされなかったことで、世界中の映画ファンが激怒。閉塞的な映画の世界観は、当時のリーマン・ショックによる経済破綻、長引く戦争による暗雲感など時代性もマッチしており、その年の作品賞に相応しい映画だと未だに思っている。実際に08年に作品賞を獲得したコーエン兄弟の『ノーカントリー』も閉塞的ではあるが、時代性はもちろん、映画的醍醐味や質の高さ、娯楽性・話題性を加味すれば、『ダーク・ナイト』が、どれだけアカデミー賞に相応しかったかは言わずもがなであろう。
結局は、アカデミー賞ってのは、社会派やヒューマン・ドラマなど、アメリカの保守的な映画ばかりが選ばれ、娯楽性の高いアクション映画などは、ジャンルによって選考に漏れるのか?という議論になり、権威維持のためか、慌てたアカデミー側が作品賞の最大ノミネート数を10作品まで拡大させた。とは言っても、受賞する作品の傾向は変わらない気もしているが。
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で、今回の「人気作品部門」の設立の噂と来た。自然と思い浮かぶのは、そう、7億ドルの大ヒットとなり全米興行成績歴代3位を記録し、今年2018年最大の世界的話題作である『ブラック・パンサー』の作品賞ノミネートの行方である。こんな、大衆依存な賞が設けられれば、『ブラック・パンサー』が作品賞選ばれるどころか、ノミネートすら絶望的と言えるではないか? 実際に、同作品のファンの間では「『ブラックパンサー』に作品賞を与えないための部門ではないか」という声が上がっているほどだ。
1991年にアニメ映画『美女と野獣』が作品賞にノミネートされた際にも、「人間の演技がアニメーションに負けて良いものか?」という議論が巻き起こり、その後2001年に長編アニメーション部門が新設されると、アニメ映画が作品賞にエントリーされることはなくなったように(『カールじいさんと空飛ぶ家』『トイ・ストーリー3』はノミネートされたけど)、今回の新部門の設立で『ブラック・パンサー』の作品賞の道のりは遠ざかると断言もできる。もっと言えば今後どんなに素晴らしいアクション系の娯楽映画が出来て話題になったとしても作品賞になることは難しくなるだろう。そうなれば、非常に偏った賞になるのではないかと思う。要は退屈な賞ってことね。
そんな中、マーベル・スタジオとウォルト・ディズニー・カンパニーは、『ブラックパンサー』を作品賞に導くために、オスカー獲得の戦略専門家であるシンシア・スワーツ氏を雇用し、オスカー獲得に向けたキャンペーンの指揮を一任することを発表した。初のヒーロー映画のアカデミー作品賞獲得に向けて、ディズニーもマジである。
早くも賛否の分かれている「人気作品部門」が正式に設立されるかの発表はされてはいないが、米Los Angeles Timesの取材に対して、あるオスカー関係者は「もし『ブラックパンサー』が作品賞から外れて人気作品部門に落ち着いたら、(アカデミー幹部の)ドーン・ハドソンは雲隠れすると思いますよ。」と語っている。
そもそもアカデミー賞というのは大衆に媚びることなく、独自に映画そのものの芸術性や時代性などを評価する賞であった。それにより権威を保ってきたはずだ。高齢白人男性の好みに偏向的とはいえ、それも解消されつつある矢先に、このような賞を設立させようとするのだから、呆れてしまったりする。
(文・ROCKinNET.com編集部)
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