今年のグラミー賞をひと言で表せば「女性」だった。司会がアリシア・キーズで、式の冒頭でオバマ元大統領夫人(大歓声を浴びる)までも呼んで来る異常な女性優先の式典は些かわざとらしさまで感じた。挙句の果てには米国芸能史で最も成功した黒人女性シンガーであるダイアナ・ロスまでも登場させ、有無言わせない「今宵は女祭りよ!」と言わんばかりの説得性まで持たせる徹底ぶりだった。
WOMAN’S GRAMMY👩💕 pic.twitter.com/LXbpyWg487
— ROCKinNET.com (@ROCKinNETcom) 2019年2月17日
事の発端は昨年2018年の候補に女性アーティストが僅かしかいなかったこと、それに対するNARASの会長の言葉が「女性はもっと頑張れ」だった事実に、多くの批判が飛んだことに起因する。昨年、最優秀アルバムで唯一の女性候補となったロードも、他の同賞の候補はソロでの歌唱を許されていたにも関わらず、彼女だけソロを許可されなかったことに抗議しパフォーマンスを辞退(同じ衝突が今年はアリアナ・グランデで起き、彼女は式を欠席)。Metooの気風も手伝い、各部門の候補数を増やし、女性のノミネートも多くし、パフォーマンスやプレゼンターなど男性不在かと思えるほどに女性優位な授賞式になった。
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けど、個人的な印象だが、この女性優位な演出は単なる批判回避に過ぎないように思える。あまりに女性にスポットライトを浴びせ過ぎで不自然だからだ。こういった男女の立場の均等を求めるフェミニズムは場合によっては留まるところを知らずに、男性よりも女性が優位にならないと気が済まなくなる危険性も含まれる。では仮に来年のグラミーの候補比率が女性よりも男性の比率が大きくなれば、また批判が飛ぶだろう。
最注目の最優秀アルバムは、評論家の評価は高いけれど知名度の低いケイシー・マスグレイヴスの『ゴールデン・アワー』が獲った。ドレイクなどのスターでない分、地味さは拭えないが、女性だし、カントリーだし、表向きは綺麗にまとめた感がある。と言うのは、ケイシーの今回の作品は、楽曲内でLGBT擁護をしたりとカントリー界でも異端の作風であり、保守的なカントリー支持者からの評価が高いわけでもなく、如何にもグラミー独自の嗜好に偏った作品でも無いし、グラミーが頑なに?守り続けるヒップホップに最高賞はあげない路線も貫けてるから(ローリンヒルの例外除く)。絶妙なラインを付いてきたと思う。
OH, WHAT A NIGHT: ❤️❤️❤️❤️ pic.twitter.com/pAXJbsB3jN
— K A C E Y M U S G R A V E S (@KaceyMusgraves) 2019年2月12日
やんや言うてますけど、何もグラミー批判やMetooに反対したいわけではない。結局のところ、アート性に無関係なセクシャリティや人種間、音楽ジャンルで偏った選考が行われてたツケが回ってきた、その代償を払う時代なのだと。では、解決策は何かとなれば、最終的には音楽性やアート性で評価がされるという至極真っ当な思考に基づくしか方法は無い。今回は女性優位でしかなかったが、LGBTや黒人、ヒップホップなどグラミーが認めていない人種分野はたくさんあるという現状は変わりない。
ビヨンセの『レモネード』や、ケンドリックの『ダム』が、その年の各媒体での評価も最高で、売り上げもトップ人気であったのにも関わらず、最優秀アルバム賞含む主要部門が獲れなかったように、ヒップホップとグラミーには大きな溝があるのも事実。そんな中で、チャイルディッシュ・ガンビーノの「This is America」が最優秀レコードと最優秀楽曲という主要二部門を制したことは大きな変革だったと言える。本人は授賞式を欠席しているが、ヒップホップとしては史上初の受賞だ。
で、何より、やはりケンドリックが主要部門でスルーされていることは無視してはならない。
何故か? 毎回大半の主要音楽媒体で最高クラスの評価を得た上で、グラミーでも最多ノミネートされているからだ。なのに、不思議なことにグラミーだけは彼を評価しない。
チャイルディッシュが獲れて、ケンドリックが徹底して数年間に渡って主要部門に選ばれない理由は何なのか。妄想の範囲になるが、ケンドリックの存在自体がグラミーの保守的な側面と対峙するからであろう。言ってもグラミー会員の多くは白人の高齢男性が多い、自ら望まなくとも反トランプの象徴とされ、存在自体がリベラルティであるケンドリックを選ぶと言うのは、既成概念の崩壊そのものだ。それこそ変革であり、その影響は計り知れない。それを是とするか非とするかでアメリカは分断されている。ケンドリックに否定的な意見も多いだろう。結局、グラミーは変わってるようで変わってない部分がここにあると思っている。
あと、やはり注目されていたのがBTSだった。プレゼンターとして登場するも、各所でインタビュー責め、授賞式でも何度もカメラで抜かれていた。旬って言うのは凄いんだなと思いながらも、ラテン音楽ブームに次いで、また韓流ブームがアメリカで吹き荒れるのか注目である。
個人的には、そんなことよりも、新人賞を受賞したデュア・リパのセクシーさに惹かれた。あと、女性だらけの授賞式の中で、ポスト・マローンとコラボしたレッチリが最高にカッコ良かった。サマソニが俄然楽しみになってくる。
<<主要部門の受賞結果>>
●最優秀アルバム
ケイシー・マスグレイヴス『ゴールデン・アワー』
●最優秀レコード
チャイルディッシュ・ガンビーノ「This is America」
●最優秀楽曲
チャイルディッシュ・ガンビーノ「This is America」
●新人賞
デュア・リパ
(文・ROCKinNET.com編集部)
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