日本芸能史を牽引してきた希代の演出家
日本の芸能界はジャニーズと共に成長したと言っても過言でないくらい、その功績と影響力は計り知れない。そのジャニーズ事務所を設立し発展し続けたジャニー喜多川氏が逝去された。享年87歳。まずは、故人に謹んでご冥福をお祈り申し上げたい。
東日本大震災時には積極的に寄付を募る人格者でもあった
ジャニー喜多川という人間は、常にエンターテイメントを創造し発展・進化させることを考えていたという生粋のプロデューサーであった。青春期の憧れでしかなかったアイドルを国民的存在まで昇華させたのもジャニーズの偉業である。その間、郷ひろみ「よろしく哀愁」から山Pの最新曲まで、オリコンのシングルチャート1位獲得作品数は439作品にものぼり、総売上枚数は1億4821万枚。SMAPや、KinKi Kids、KAT-TUNなど、ミリオンヒットは、12作品。2011年には「最も多くのコンサートをプロデュースした人物」「最も多くのナンバーワン・シングルをプロデュースした人物」としてギネス認定までされた。また、東日本大震災の際には「戦争を経験した僕でさえも体験したことのない災害だ」という旨の発言とともに、所属タレントを総動員させ、寄付を募るなどの人格者でもあった。
音痴の中居も許容!個性を重視し活かしきる手法!
そして何より、新たな才能を発掘し、それを活かしきる達人であった。生前に「蜷川幸雄のクロスオーバートーク」に出演した際、蜷川氏から「有望な子だと思っても成長しない子だっているでしょ?」と聞かれ「いない」と力強く即答したという。成長するもしないも、個を伸ばせるか否かを意味する。それは、つまるところ、タレントを演出する自分への責任を問うものでもある。その姿勢こそ、演出家として天才と言われた由縁だろう。
例えば、元SMAPの中居正広。
歌が下手なアイドルなんて前代未聞ではあったが、ジャニー氏から「YOU、それネタにしちゃいなよ」と言われたと司会を務めた「うたばん」で暴露したことがあった。レッスンさせ歌唱力を磨くのではなく自虐ネタにさせてしまう。前例のないキャラ設定を厭わないからこそ、ジャニーズ事務所には個性際立つタレントが多く存在する。そこが他の事務所の男性アイドルとは異なり、一般社会とは遠い存在のスターではなく、親近性あるアイドル像を確立したことで、大きな支持を集めた。ジャニーズのグループの解散や活動休止が社会的トピックスとなるのも、その大衆性にあると個人的には思っている。
エンタメを通じて語り続けた「反戦」メッセージ
ジャニー氏を語る上で避けて通れないのは戦争である。2度の戦争を体験したジャニー氏は「昔を生きているからこそ平和の尊さが分かる」と語り、自身が演出を務めるエンタメを通じて「反戦」を描き続けた。戦争体験者が少なくなる中、ジャニー氏の反戦メッセージは作品として、日本の教訓としても残り続けるだろう。
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ジャニーズ以外の男性アイドルは徹底して潰すシビアな面も
日本ではジャニーズ以外の男性アイドルを作ることは無理?
一方で、その敏腕っぷりは独裁的な側面も持った。ジャニーズは自身のプロダクション以外の男性アイドルの存在を許さない。古くはグレートチキンパワーズ、近年はDA PUMP、w-inds、Leadなどライジング系など。ジャニーズによって横槍を入れられて潰された男性タレントは数知れない。EXILEでさえジャニーズとキャラが被らないように、ワイルド系な容姿でもってアイドル性を排除しながら自分の立ち位置に気を遣ったくらいだ。島田紳介が新撰組リアンを結成した際に「ジャニーズさんに挨拶してない」と発言したこともあった。DA PUMP結成時もライジングプロダクション社長がジャニーズに挨拶に行ったという、そのDA PUMPが98年にMステに初登場した際は、それまで必ず毎週出演していたジャニーズ所属タレントが出演しなかった。
ジャニー氏亡き後、アイドル勢力はどう変化する?
日本ではジャニーズ以外の男性アイドル・グループを作ることは不可能であった。しかし、ジャニー氏がいなくなった今後の日本の芸能界は、その縮図が大きく変貌する可能性だってある。姉のメリー喜多川が社長就任したようだが、弟のスネをかじっていただけの人間に、ジャニー氏に匹敵するエンタメの創造はできまい。プロデュース力を失えば今後のタレントに魅力が欠けるかも知れない。ともすれば、影響力の下降は避けられないかも知れない。
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最高裁まで争われた少年へのセクハラ「泡風呂の儀式」
また、ジャニー氏を語る上で避けらえないのは、所属タレントへのセクハラだ。同性愛者であるジャニー氏、通称「16歳の儀式」や「泡風呂の儀式」と言われ、デビュー前のJrの少年に「YOUをデビューさせてあげる」という口実のもとで、性的行為を強制させていた。元ジャニーズJrの被害少年たちが告発本を出版、著書は多くある。これは2000年に国会でも取り上げられたくらいだから信憑性はある。アメリカのタイムズやCNNなどの主要メディアで報道されたことがあるが、日本のテレビ局はジャニーズ事務所との忖度から完全にスルーした。警察を車で引いても「稲垣メンバー」だもんね。
裁判によってセクハラの事実は認められてしまった
それを報じたのは文春だけ(99年のことだった)。名誉棄損としてジャニー氏側が訴訟を起こし、04年では最高裁にまで争われた。証言台に被害者の少年が立ったことも業界内では大きな話題だったらしい。結局、名誉棄損の件ではジャニー氏の勝訴となるが、逆にセクハラの事実が裁判の過程で認められてしまったのは誤算だったかも知れない。
自身をアイコン化させネガティブなイメージを払拭する流石の手腕
ただ、そんな自身のマイナスなイメージを覆してしまうのがジャニー喜多川という人間だ。「HEY!HEY!HEY!」にジャニーズのタレントが積極的に出演するようになると同時に、ダウンタウンとのトークの中で、(おそらく事務所側のオファーもあったと予想するが)「YOU~しちゃいなよ」という特異なキーワードを拡散、自身をアイコン化させてしまったのだから。世間では俄かに信じ難い都市伝説のような噂だけに「~しちゃいなよ」は流行し、「ジャニー氏は良い人である」というイメージが植え付く、セクハラのネガティブイメージを払拭させるに十分過ぎた。
今後、日本の芸能界はどう変化するのだろうか?
追悼の意や、功績の称讃とともに、その人物像に迫るために事実を隠さずに記させて頂いた。
故人への侮辱やの意図は全くない。
とは言え、希代の天才プロデューサーを失った日本の芸能界は、どう変貌するのだろうか。Jrの大量退所もあり、中居や長瀬の独立の噂も絶えず、嵐も実質的には20年に解散するに等しく、関ジャニも存続が危ぶまれる。そんな危機的状況の中、創設者がこの世を去った。これが、どう影響力を維持するのか、ジャニーズ以外の男性アイドルが台頭するのか、日本の芸能界が大きな転換期を迎えていることに間違いはない。
(文・ROCKinNET.com編集部)
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