もう、言いたいことが山ほどあるくらいの興奮を貰った、人間愛、映画愛、音楽愛、夢追い人愛、LA愛・・・全てのものを肯定し、愛する、とびっきりポジティブで、観ていて自然と笑顔になれる大傑作!『セッション』に続き、度肝を抜かせたデミアン監督の若き才能に、心から拍手を贈りたい!
惜しくもアカデミー賞を逃したわけだが、ミュージカル映画の傑作が生まれる時代背景には、必ずと言っていいほど、混沌とした世界情勢がある。
『マイ・フェア・レディ』や『サウンド・オブ・ミュージック』が誕生した1964~65年は、第二次大戦後の経済が急成長に伴い、核戦争の脅威が世界中を覆った時代だし、『シカゴ』が誕生した2002年は9.11後の傷付いたアメリカと、イラク戦争が始まる狭間だし、『ヘアスプレー』が誕生した2007年はサブプライムローン問題を発端としたアメリカの住宅バブル崩壊の頃だ。
確かに、『ムーンライト』は人種差別、貧困、DV、ドラッグ、LGBTなど現代が抱える様々な問題を集約したような映画で、オスカーとは時代性と共にあるべきだと思っている、古株映画ファンとしては、同作が作品賞に輝いたことは大変うれしいのだが、それでも『ラ・ラ・ランド』がこうも世界的ヒットを記録し、話題となり、評判も上々な背景には、欧州各国のナショナリズムの台頭、トランプ政権発足後の排他主義の横行など、キナ臭い現代というバックグラウンドがあるからこそだろう。
そんな時、人々は映画に華やかさを求める。豪華絢爛、煌びやかな、非現実を劇場に見出す。実際に、OPの高速道路の渋滞シーンから、いつの間にかブロードウェイかのような華々しいミュージカル・シーン=シュールレアリスムへの移行をさり気なく行う。このリアル世界から、非現実=シュールレアリスムの違和感ない移り変わりこそが、優れたミュージカルと定義づけるに重要なファクターとなる。個人的に名作と思ってる『マイ・フェア・レディ』『美女と野獣』『シカゴ』のように。
それと、同作は<夢追い人>の応援映画でもある。
来日時にライアン・ゴズリングは「時に才能があっても運に恵まれずに花開かない人もいる、残念なことなんだ」と話した。
劇中のエマもライアンもガムシャラだった。夢の実現に恥もかいた。虚しい時間をたくさん過ごし、悔しい思いもたくさんした。決して、楽しい場面ではない、けど、この姿こそ美しく愛おしく思えた。若い頃に何かになろうとした経験があれば、共感できるだろう。
デミアン監督も映画監督を目指す前には、ジャズ・ドラマーを目指してた、理想的な現実ではない。ラ・ラ・ランドという語源がLAを指すと同時に、現実離れした世界を意味する。理想の世界だ。それが、エマとライアンが空白の数年後に再開したと同時に走馬灯のように映し出される。出会った瞬間にキスを交わし、お互いの夢もトントン拍子で叶い、結婚し、子供にも恵まれる。カラフルな美しい色彩と、心安らぐBGMと共に、正しく夢心地な非現実の、ラ・ラ・ランドを観客に味わわせてくれる。素敵な映画体験だ。
結局、二人は別の道を歩むことになるが、それでも、その道を生きていくという結論に達する。デミアン監督がジャズ・ドラマーでなく、監督としてオスカーを手に入れたように、理想でなくても人生は美しい。そう、この映画は、全ての夢追い人を肯定する人生賛歌なのだ。
(文・ROCKinNET.com)
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