日本映画の元ネタとして漫画原作が多くなったのは何も今始まったことではない。日本の映画界が、オリジナルの脚本が書けないというわけでも無いだろうが、大衆の関心を惹きつけ、ヒットさせるほどの話題性を生む力が無いのは明白だ。だからこそ、最初から作品の知名度・浸透性が高い、漫画原作に頼り切ってしまうなんて言わずもがなな事実である。その反面、漫画原作は原作ファンの評価が厳しい傾向にあり、「原作の世界観を活かしきれていない」とか「配役など明らかにイメージを崩している」とか何かとケチを付けられがち。そんなハードル高きジャンルでもあることは言えよう。
とんねるずの木梨憲武が主演を務めることで話題を呼んだ『いぬやしき』。派手なアクション・シーンも然ることながら原作人気が高いことで大ヒットを期待されていたが、蓋を開けてみれば興収ランキング初登場5位と散々なスタートダッシュに関係者はガックシ肩を落としたとか。最終的には興収8億円程度に収まる見込みで、微妙にコケたと思われても仕方ない。
では、日本映画はどのくらいの興行収入ならヒットと呼べるのだろうか。
「デッドプール」はハリウッド映画としては低予算で製作費約60億円(超大作の4分の1)。つまり10分間6億円かかってる。邦画の大手(東宝)会社の通常作品の製作費は5億円以下。年に2本くらいの超大作でも10億円以下。
— 町山智浩 (@TomoMachi) 2016年6月20日
東宝の例ではあるが、5億円そこそこが平均的な制作費で大作になると10億円。その回収を行うためには3倍の興収(DVD化の売上等も含む場合も有)がないといけない、すなはち、黒字になるのは制作費の3倍と言われているので、興収15~30億がギリギリ黒字の範囲ということになる。これは、黒字の目安であってヒット概念とは違う。大ヒットと呼べる基準はあくまで興収30億円からという業界の通説を仮定するならば、その1/3以下、10億円以下の制作費の映画が興収30億であるなら、ヒットと定義づけて良いということになる。興収だけに注目せずに、制作費も鑑みなければならない。
しかし現実的には、ここ数年の漫画原作映画は興収10~15億円に達しない例が大半である。
最近は『銀魂』が32億円の大ヒットを記録するも、その前になると、30億円を超えた作品は2015年の『進撃の巨人』の32億円まで遡る。要は、この三年間はヒット作が生まれていない。しかも、続編の『進撃の巨人 エンド・オブ・ザ・ワールド』は16億円と半減するのだ。
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『テラフォーマーズ』
伊藤英明主演で、山Pや武井咲など錚々たる俳優を集めた、三池崇史監督作も興収7.8億円とイマイチ。続編の話も立ち消えになったとかって噂。
『東京喰種』
ドラマ「デスノート」での怪演が好評だった旬の窪田正孝を主演に迎え、人気コミックを映画化することで大きな話題になるも興収11.0億円と微妙な結果に。松竹の大角正常務取締役が「興行収入30億はいって欲しい」という発言をしていたので、相応の制作費だったことが想定される。また、一部報道では予算が当初の予定よりoverしたという話も聞くので尚更だ。続編に関しては出演女優の出家騒動などで、映画の話題をネガティヴなものに摩り替えられたこともあるので、今度こそばかりは邪魔者無しでヒットを狙おうと思ってるのだろうけど続編は前作を上回らないジンクス・・・・・・
『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』
四部作構想も立ち消える大失敗作。2017年の夏の超大作として大々的にプロモートするも興収約9.2億円と世紀の大誤算。少女漫画原作映画の帝王・山崎賢人史上最も振るわなかった作品。
『亜人』
佐藤健と綾野剛が共演しアクションもド派手な一流エンターテイメント作品だが、興収約14.2億円(祝日の金曜日を含む初動で約2.7億円)と、宣伝費含めて金掛かってることが明白にも関わらず、今ひとつ寂しい結果に。洋画大作並みの350スクリーン公開、席料の高いIMAXや4DXを取り入れての結果だけに、もうひとつ勢いが無かった。『踊る大捜査線』の本広克行監督を起用しただけに関係者はガックシ?
『無限の住人』
木村拓哉主演で話題をかっさらおうと思ったのだろうが、時同じくしてSMAP解散の驚愕報道が日本中を吹き荒れ、その原因とされたキムタクは人気者から嫌われ者に転落。これ結構大きい要因かも。興収9.6億円
では、漫画原作でヒットしている作品はどんなのがあるのだろうか?
1位 『ROOKIES-卒業-』85.5億円
2位 『THE LAST MESSAGE 海猿』80.4億円
3位 『花より男子ファイナル』77.5億円
4位 『BRAVE HEARTS 海猿』73.3億円
5位 『LIMIT OF LOVE 海猿』71.0億円
6位 『テルマエ・ロマエ』59.8億円
7位 『るろうに剣心~京都大火編~』52.2億円
8位 『デスノート the Last name』52.0億円
9位 『信長協奏曲』46.1億円
10位 『ALWAYS 続・三丁目の夕日』45.6億円
一時期は邦高洋低と言われた映画界。『踊る大捜査線』の成功により日本映画人気が高騰、ハリウッド大作が絶対的にヒットしていた時代は終わり、洋画の成績が全体的に振るわなかった時代もあった。邦画人気が高まるに比例して、制作本数も増加傾向にあったのだろう。映画のネタがオリジナル脚本から漫画人気にあやかるようになる。
今回のような興収不振は、こういった邦画バブルの副作用だと思っている。何でもいいから、人気と知名度の高い原作の実写化の権利を取得し、それなりの業績を残した監督と俳優を起用する。
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しかし、漫画原作の映画が増えれば、話題性が重要になる。話題を呼ぶために簡単なのは刺激だ。日本は漫画大国であるから、数多くの作品の中から抜きん出るために、執拗なグロ描写のある漫画が中には存在し、話題になったりもしている。それらを映画化すれば、当然ながら、R指定が付き、自ずとエグイ日本映画も多くなる。
現に近年の邦画は、まるで韓国映画のような薄暗くてエグイ映画が多くなってきているように感じていた。コケている映画の内容の、まぁエグイこと。血糊無くして日本映画は作れないなんて嫌味を言いたくなる。最初は刺激物も皆好んで群がるが、次第に嫌気がさしてくる。その結果が、漫画原作の映画不振に繋がっている要因のひとつと考える。あくまでひとつ。正直なところ、年中、そんな胸糞悪いもの見たかないんだよね。
あくまで個人的な見解かも知れないが、歴代のヒット作が感動路線であることや、最近の唯一のヒット作である『銀魂』がコメディタッチなことを鑑みれば、身構える必要なく観れる安堵感というか、水戸黄門のように殺陣でも血が出ないような品位あるものに、時代はシフトしていってるのではないかと思う。ヒット作に、暴力的だったりエグイ描写の作品が無いことが如実であろう。現に時代劇映画からチャンバラが消えたことも現代的ではないか。
そして、国内における洋邦の比重が洋画優位になりつつあるのも事実だ。日本映画のエグさに時代が辟易としている要因が一理あるとすれば、時代はそんな胸糞悪い作品をわざわざ時間と金使って観に行きたいと思ってはいない表れ。日本映画は、漫画原作から離れ、オリジナルの脚本で勝負する時が来たのかも知れない。『万引き家族』がヒット街道驀進中なことも煽りを受けて、作家として主張ある現代に意味ある作品が、コメディだろうが、社会派だろうが、何だろうが、生まれることを願っている。
(文・ROCKinNET.com編集部)
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