映画レビュー

【映画レビュー】『アオラレ』短気は損気!扇情的でセンセーショナルなテーマに釘付け!




© 2021 SOLSTICE STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

久々にぶっ飛んだ映画を観た衝撃。個人事業で美容師の仕事をしている主人公は離婚調停中のシングルマザー。この時点で頼れる男の存在を希薄にしているのが後々の展開の不安を掻き立てるのに十分だ(結局は男だろうと関係なく手に追えない展開にもなるが)。とある朝、寝坊しながらも息子を学校に送り迎える際に、ついてない出来事が重なり苛立っている中、前方で青信号になっても進まない不審な車両にクラクションを鳴らしたことから、その運転手に執拗に追い掛けられるサイコ・スリラー。

スピルバーグのデビュー作にして最高傑作とも言える『激突』を彷彿とさせるように、運転手を理不尽に追い回す。あの映画は犯人を見せないことで恐怖を煽ったが、本作では犯人をこれでもかってほどに見せる。とにかく、重量級の横綱化したラッセル・クロウのインパクト勝ちである。『グラディエーター』の頃の英雄の影も形も無い姿は、恐怖を覚えるのに説得力があり過ぎた。また、邦題が珍しく良い、『アオラレ』。センセーショナルだ。原題は『Unhinded』、狂気または精神異常により影響を受けることを指し、不安定を意味する。ラッセル演じるサイコ野郎は麻薬性鎮静剤をバリボリ食っていたので、相当にヤバい奴。



このサイコ豚野郎が大暴れ、いわゆる理屈や常識を共有できない相手と、どう対峙すれば良いかが非常に難しいということになるが、結局は闘うというハリウッド的なムチャクチャ加減も含め、拳銃で撃たれようが怪力で暴れるラッセルにフィクションを感じて、少しは救われる気になる。リアリティに落とし込むよりも多少はB級テイストで嘘臭く描かれた方が娯楽として楽しめるからだ。
とは言え、この映画はどこか現代にメッセージを送る。冒頭でも、煽り運転の事故が倍増しているニュース音声が流れたり、劇中でも化粧をしながら運転する女性の車がラッセルの暴走車に巻き込まれて大破するなど、「ながら運転」の危険性を暗に皮肉めいて描いている。

二年前に常磐道で日本中を震撼させた「あおり運転」事件があったのも、鮮烈な記憶として我々の中に未だに恐怖として残っているし、コロナ禍で多くの人が不安やストレス過多になってる今だからこそ、他者に対して苛立ちを覚える扇情的なテーマは、流石に行き過ぎたストーリーながらも他人事のように思えない。そんな「まさに今」だからこその、エクスプロテーションにまんまと引っ掛かりながら、見入ってしまった。短気は損気、皮肉なことに、サイコ野郎を描いたスリラーに学んでしまった。

(文・ROCKinNET.com編集部)
※当記事の著作はROCKinNET.comに帰属し、一切の無断転載・再交付は固く禁ずる。


 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!

ピックアップ記事

  1. ポール東京ドーム初日を観た!
  2. 【速報ライヴレポ】ハリー・スタイルズ初ソロ来日公演を間近で観た!彼こそ時代の寵児…
  3. サンボマスター vs My Hair is Bad 男どアホウ夏の陣!日本ロック…
  4. 何故「バルス現象」は起きるのか?その理由は日本特有の国民性と風土にあった!
  5. 【大混戦】#TimesUp運動の影響で本年度オスカー主演男優賞はティモシー・シャ…

関連記事

  1. 映画レビュー

    【SF映画の金字塔更新】『ブレードランナー2049』が、映画の続編の史上最高傑作である理由

    SF映画の金字塔の続編として圧倒的な成功例続編映画の最高峰と言…

  2. 映画レビュー

    『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』飽和を恒例に変える流石のクオリティ!

    シリーズも五作目となり、いよいよ飽和期に差し掛かってもおかしくない…

  3. 映画レビュー

    マーベルに名作増える『スパイダーマン:ホームカミング』青春ヒーロー映画の金字塔誕生!

    所詮はアメコミである。これだけ年に複数作も乱発公開していれば観客も…

  4. 映画レビュー

    決して米軍万歳ではない『ハクソー・リッジ』でメル・ギブソンが描きたかった本当の事とは?

    メル・ギブソンの映画は苦手である。痛々しいシーンが無駄にリアルで目…

  5. 映画レビュー

    『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』ファンタジー映画として少し違和感・・・

    冒頭から個人的な事情を述べることに些か恐縮ではあるのだが、公私共に…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

人気の記事

[PR]
  1. ライブレポート

    COUNTDOWN JAPAN 1718 4日目ライヴレポート
  2. 映画レビュー

    『アベンジャーズ/エンドゲーム』 映画史に残る大傑作にして娯楽の頂点だ!
  3. ハリウッド

    【実は悪事を働いていない?】『美女と野獣』の悪役ガストンから読み解く、強さを求め…
  4. 映画

    ピーター死亡?アベンジャーズと違う?話題の映画『スパイダーマン:スパイダーバース…
  5. ニュース

    エルレ細美が「待った!」転売野放し・・・チケットだけじゃないライヴ物販問題を考え…
PAGE TOP