※ネタバレ注意※
この記事は映画の内容に触れていますので、閲覧には十分に注意して下さい。
『シックス・センス』以来の衝撃だった。身の毛もよだつとは、こういうことを言うのだろうという映画体験だった。とにかく、アイディア勝ち。前半で特に意味を持たないと思われる細かなエピソードを回収する脚本の功名さに唸らせながらも、人種差別という米国に永遠に根差している社会問題を意表を突く形で結論付ける。単なる黒人差別の映画だと思ったら痛い目に遭うぞ!
トランプ政権が発足して約1年が経とうとしているが、今や米国は完全に分断されている。保守層が台頭しながらも、俳優や歌手にも多いリベラル派と対立していく中で、マイノリティ差別はより根深いものとなっている。
そんな世相の中に於いて、この映画は、白人彼女の実家に招かれた黒人彼氏の主人公を描くという、ある種の冒険をする。序盤で黒人彼氏は「歓迎されるわけない」と彼女に不安を言及するが、彼女は「父は熱心なオバマ支持者だった」とリベラルな思想を持っていると説明する。実際に彼女の実家に歓迎されるも、まさか、この“歓迎”の意味が後々の戦慄の展開に結びつくなど想像もつかないだろう。
白人彼女の家に着いて早々ミステリーは始まる。使用人が全員黒人であること、次第に、その白人達に周囲に仕える黒人の使用人たちの、目がイッちゃってる表情に、主人公は疑問を抱くようになる。
終始ニタニタ(ニコニコではない)している女性使用人の気色悪さ、夜中に庭の奥から主人公めがけて一直線に猛ダッシュしてくる黒人使用人の描写は気色悪さのあまり鳥肌が立った。社交界で出会った黒人青年は、視線が定まっておらず、笑顔である物の感情が感じられないのだ。
これらの黒人の使用人に対する気味悪さって、今や世界を席巻しているホラー映画『IT』でも注目される“ピエロ恐怖症”(ピエロの無表情なところに恐怖を感じる)に近いものがあると思う。
この黒人俳優たちの演技の薄気味悪さこそ、この映画の最大のキーとなる。喜怒哀楽が読めない、まるで道化師やロボットのようなの演技。まさしく怪演だ。
社交界でも、一見リベラルと思わしき白人富裕層の老人たちだが、黒人である主人公を妙に褒め称えるのだが、どうも胡散臭い。骨格や筋肉、性欲など、褒めるにせよポイントが違うのだ。この居心地の悪さはマイノリティ視点ならではの気持ち悪さで、見事にそんな不穏な空気感を描き切れたことに脱帽する。
その謎を、黒人を白人よりも劣った人種としての差別意識とは真逆の発想で、観る者を圧倒させる。
言ってみれば、黒人の能力は高く評価していても、彼らを実験用のハツカネズミのようにしか捉えていない白人老人達の発想たるや、恐ろしい。黒人の能力を自分のものにする、SFチックな発想だからこそ「非現実的」で、その嘘臭さに救われる部分があるにせよミステリーとしての上出来さを感じる。最終的には『ハンニバル』宜しく脳みそパッカ~ン描写など、開き直ってる程のグロ描写で、どうにも逃げようのないホラー感を以て一種のホラー的娯楽性を生み出している。ミステリーで頭をフル回転しながらも、ホラー要素と心理的恐怖との格闘の末、久々に観疲れする映画だったなと感じる。これを、黒人コメディアンであるジョーダン・ピールが作ったというのだから驚きだ。
(文・ROCKinNET.com)
※無断転載・再交付は固く禁ずる。引用の際はURLとサイト名の記述必須。
最新情報をお届けします
Twitter でROCKinNET.comをフォローしよう!
Follow @ROCKinNETcom
この記事へのコメントはありません。