王様って実に不自由な職業だと思う。正室の長男なら、生まれた瞬間から人生の全てが決まってしまうのだから。当然、そんな中で、やる気のない王様が出てくることだって、そりゃあるだろって。この映画『キング』で今をときめくティモシー・シャラメが演じる主人公がヘンリー五世は、生誕時に既に従兄が英王を務めていたから、「どうせ俺に王位は来ね~や」とテイタラクな生活をしてたと(長髪で堕落したダメンズっぷりが意外にもシャラメに似合っている)。
しかし、王位が従兄弟側から自分側に映ったことで、将来を真剣に考えなければならなくなり、王として覚醒するまでの成長物語を描いたのが、この映画。シェイクスピアが元ネタだとか。
史劇の傑作と言えば『ベン・ハー』や『ブレイブハート』『グラディエーター』のように筋肉隆々の英雄が暴れるイメージが強いが、それとは異なり華奢なシャラメが主人公というところが今っぽいし、無駄な争いを避けようとする異質な王が描かれている。
実際のヘンリー五世は、軍事能力に長けていて、何回も国内での反乱を収めていたんだとか。思えば、劇中でも戦争をそつなくこなしてるから、軍事スキルの高いヘンリー五世像はしっかりと描かれているんだなと思うが、和平を望むようなアイドル的な脚色?部分はシャラメだからこそ成立し得る今時の国王像だと感じた。
それを支えるジョエル・エドガートンの頼れる兄貴的右腕感も最高にかっこいい。
従来の史劇と比べれば迫力に欠けるものの、綺麗事だけじゃ済まないことばかりで、歴史が作られるとはこういうことなんだと未熟王と共に感じられる久々に濃い歴史モノだったと思う。
同時に、将来ハリウッドを背負う存在になるかも知れないシャラメの初の時代物という意味合いでも見応えはあろう。同性愛に揺れ動く青年、女性を虜にするイケメン、麻薬中毒の青年、若草物語で演じた富裕層など、どちらかというと「軟弱」だったり「優男」な配役が多かったが、戦闘直前に王として民衆を奮い立たせる台詞を叫ぶ姿に、シャラメの新たな演技派としての一面を垣間見ることも出来て嬉しい。イギリス訛りも完璧で高評価だ。
何よりも、この映画の存在意義は、Netflixが本気出せば、ここまで本格的な史劇も作れるという一種の指標にもなっていることで、その高いクオリティには驚かされた。
(文・ROCKinNET.com編集部)
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