名作アニメの実写化が止まらないディズニーにやり過ぎ感が芽生えていたけれども、昨年2017年に世界的な特大ヒットとなった『美女と野獣』のクオリティの高さに舌を巻くも、それをも凌駕する新たな名作が生まれたような気がする。それが今回の映画だった。最初『くまのプーさん』を実写化すると聴いた時は、どんなものになるのか不安しかなかったが、それも杞憂に終わることになる。
名作アニメ1977年の『くまのプーさん 完全保存版』のエンディングである、クリストファー・ロビンとプーの別れのシーンの再現から物語は始まる。あのシーンは本当に切ない。童心がゆえにピュアな子供が、勉学や仕事と、ヒトとしての成長の道を歩むべく、純真だけで許されていた時代との別離を描いているからだ。そりゃ30歳になっても、ぬいぐるみと遊んでいるおっさんいたら困るけどさ。実際にお子さんがいる方や、可愛がってる親戚の子、姪甥御さんがいる方なら何となしに分かってくれると思うけど、子供の成長って誇らしいと思うと同時に、ある種の寂しさのようなものがない?
『プーと大人になった僕』を観る前に復習しておきましょう。クリストファー・ロビンとプーにとって「何もしないをする」という約束がどれほど大切なことだったか分かれば、プーが大人になったクリストファー・ロビンの前に現れた必然性が理解できると思うから。 pic.twitter.com/mm80kFwQxN
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その続きを見せてくれるというのだから、プーさんファンとしては、この映画の存在意義は大きい。クリストファー・ロビンは、100エーカーの森を去った後に、寄宿学校でスパルタ教育を受け、結婚や出産を経て、大人の階段を登っていた。まさか戦争にまで行ってるとは思わなかったが。中年となってからは鞄メーカー企業で、家族よりも仕事第一主義の社畜となっていた。天井に赤ん坊が這ってるのが見えるほどのジャンキー不良少年になった後に、偉大なるジェダイ・マスターになったりと波乱万丈な人生を送った、疲労困憊のクリストファーのもとに、プーが現れる。最初は否定していたクリストファーだが、彼の元にプーが現れたことは必然だと感じた。現代に生き、理不尽さに思い悩む誰しも、プーを必要としているのだ。
「何もしないを毎日やっている」「(仕事が)風船よりも大事?」と聞くプーの言葉こそ人生の真髄だったりする。この映画を、仕事批判と捉えるには安直だ。生きていくにはお金は必要だ。だから、仕事はしなければならない。プーはそんなこと言ってる訳ではない。ただ、行き過ぎた過労働や、社会の理不尽さに心の余裕や豊かさまで奪われてはいけないなんて、おとぎ話の常套句のようなものがテーマとしてあるのだが、説教臭くない。これって、プーだから成立するのだろう。だって、プーは常に自然体だから。いい加減、アナ雪のテーマ性を引き継いでるなんて言いたくはないけど、正しく「ありのまま」。小難しい屁理屈が渦巻く現代の諸問題も、果たして「風船より大事か」と問われれば答えが自ずと導き出されるだろう。
プーの愛くるしさの勝ち。
それと、ぬいぐるみなので無表情なはずのプーが表情だけで演技してたのには驚いた。#プーと大人になった僕 #プーさん pic.twitter.com/6n6FtQg6Ja— ROCKinNET.com (@ROCKinNETcom) 2018年10月21日
これは子供映画ではなく、現代社会や窮屈な理屈に生き辛さを感じる大人たちに向けたエールなのだと思った。プーさんは、大人になった今でも、クリストファーにしたように、観ている我々にも人生の指針を示してくれた。それとなく。風船よりも大事な物はないと思えば、肩の力が自然と軽くなった。それでいい、それがいい。
劇中で、プーの蜂蜜を狙う想像上の怪物「ズゾウとヒイタチ」を巧みに使用したり、プーとピグレットが謎の足跡を追跡するが自分たちの足跡を追って樹の周りをぐるぐる回っていただけとか、オウルの家が再び木から落ちて崩壊しているとか、原作ファンが嬉しくなるエピソードを適所に織り交ぜているサービス精神は流石である。
また、何と言っても、プーの表情が愛くるしい。クリストファーに邪険にされ「もう友達じゃない」と突き放される際の悲しい顔、現実社会のドタバタの末にクリストファーが大切なものに気付いた時の安堵の表情など。プーはぬいぐるみだから表情は変わらない。けど、確かに表情があるのだ。ぬいぐるみの顔だけで心情を表現する。その見せ方の巧さは脱帽するレベルである。
心が浄化されるような映画だった。観て良かった。
(文・ROCKinNET.com編集部)
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