ノーベル文学賞を受賞した作家と、その夫婦にまつわる疑惑をめぐるサスペンス。とにかくグレン・クローズの演技が見事としか言いようが無かった映画だった。その疑惑というものが、ノーベル賞を受賞した夫である作家の作品は、その妻が書いたのではないかというものだった。
ゴーストライターであるか否かを直接的な台詞ではなく、真実への不安や葛藤、夫への疑心などの感情を表情だけで物語っていくグレン・クローズの繊細な演技に全てが支えられている映画だった。ノーベル賞の授賞式でスピーチする夫を見つめる、なんとも言えない表情が怖くも悲しくも切なくもあった。流石は大女優だ、御年72歳の高齢で主演を務められるのは彼女かヘレン・ミレンか、メリル・ストリープかだけだろう。今年の賞レースで主演女優賞を独占しているらしいが、オスカーを獲得したも同然と言えよう。
大なり小なり人生何十年と生きていれば秘密や失敗は誰しもあるだろう。逆に、そんなミステリアスさがその人の魅力になっていたりもする。どこか影のある人間の方が興味惹かれる感じ。
次第に、その疑惑を嗅ぎまわるノンフィクション作家が現れ、事実の真相を探られてから、彼女の中で何かが芽生え始める。それは、「尊厳」であったと思う。名誉よりも尊厳。本当は自分が書いたという事実をひた隠しながら、ヒモ気質というか利己的で浮気な夫に「妻は文学的なことは分からない」と話のネタにされる屈辱。今まではそんな夫への憎悪と嫉妬心を創作にぶつけて昇華させられてきたけど、彼女にも我慢の限界があった。遂に、晩餐会で爆発してしまう。彼女は決してノーベル賞が欲しいわけではない、認められたくなったのだ。作品でなく自分を。実際に送迎車の窓からノーベル賞のメダルを投げ捨ててしまうシーンなんか滑稽でおかしかった。
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結局は人間ってそういうもんなんだろうと思った。名声よりも承認欲求の方が勝ってしまう。だから、よく海外なんかでは売れまくっている人気曲に楽曲が似ているとかでマイナー側が訴訟を起こすなんてのもそうだし、『カメラを止めるな!』のパクリ騒動も結局はこういう認められたい欲求だと思う。個人的な話になって申し訳ないが、よく分かる。若かりし頃に、まだ就職氷河期真っ只中で、大卒でも契約社員で入社して、正規雇用の上司がテイタラクなアンポンタンだったんだけど、大きな仕事を成し遂げた際に、ほぼ自分の成果だった事実があったのに、全部その上司の手柄となって昇給とかもしてて、自分にはコーヒーだけって時があったんだけど、給料を上げてくれとか以前に、俺がやったんだという認知だけをまずは求めたっていう。あの当時は相当に悔しかったなぁ。
『天才作家の妻 -40年目の真実-』にて
承認欲求が爆発寸前の表情が『危険な情事』並みに怖かった(笑)
表情だけで全てを語っていく映画だっただけに、グレン・クローズの芸達者ぶりがいかんなく発揮されていたと思う。流石は大女優である。#アカデミー賞#グレンクローズ pic.twitter.com/QAoLAXxUMu— ROCKinNET.com (@ROCKinNETcom) 2019年2月27日
男尊女卑なんて能天気に言って満足しているのも男だけ。どんだけ内助の功に徹する女性といえども、所詮は男を手のひらで転がしているもの。帰国の飛行機の中で息子に「帰ったら本当のことを教えてあげる」と言った彼女の表情は何故か辛気臭さが微塵もなく明るかった。ノンフィクション作家には疑惑を否定し夫の威厳を保ちつつも、一方で暴露本でも書きそうな危うさも感じられる彼女の気持ちの真相は彼女しか分からないまま結末で幕を閉じる。
(文・ROCKinNET.com編集部)
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