自分が多感な青春期に世界で起こった重大な事件の数々の舞台裏を知れた衝撃というのは相当のものだった。
聞けば、このアダム・マッケイって監督はアメリカの国民的番組「サタデー・ナイト・クラブ」制作出身だそうで納得。同番組と言えば、日本で言えば「笑っていいとも」的な人気長寿番組で、内容は当然コメディ。扱うのは政治で、それをコメディアンたちが茶化すって基本的なスタンスは、この映画まんま。政治を痛烈なギャグで風刺する、言わばアダム監督の原点回帰であり、超お得意分野。なもんだから、面白くない訳がない。
しかも、役者のモノマネ芸が素晴らしい!!
主演のクリスチャン・ベールも、サム・ロックウェルも。
本当に見事な再現性で、役になりきる役者魂は役よりも整った顔をどう映らせるかばかりの日本の若手役者は見倣ったほうが良い。こういう部分で、やはりハリウッドの役者の方が上手だなと思うな~
製作に民主党支持のブラピが名を連ねているので、共和党に批判的な内容ではあることは想像に易いと思われるが、これぞとばかりに驚愕の事実の暴露大会。
しかも、イラク戦争を仕掛けたのがブッシュ大統領でなく、チェイニー副大統領だったという衝撃的な事実を暴露させちゃうもんだから凄い。この攻めてる感じ好っきだな~。劇中でも、チェイニーはブッシュを見ながらも内心「父親に認められたいがためだけに大統領になった」と卑下していた。完全に見下してたのは事実。だから、お前は黙ってろってことなんだと。とことん、ブッシュ大統領をボンクラに描いていたことが笑えたが、米国民のイメージはああなんだろうなあ。現にブッシュ政権は「操り人形政権」なんて揶揄されることが多々あるが、あの時の実権はチェイニーをはじめとする裏に潜むタカ派の連中だったってことだ。
オバマ政権が格差是正を試みても停滞したことで民主党の不満が高まり、今のトランプ政権に繋がったとの見方も出来るが、じゃ~どうしてオバマは反チェイニー路線を突き進めなかったかって言えば、チェイニーが実権を握っていた操り人形世間の時の膿を出すため、大統領の強権発動のストッパーが出来上がったことにも起因する。結果、オバマもブッシュと同じだけの大統領令を出してることからも、どれだけ大統領の政策行使にハードルが出来たかが垣間見える。
バイスでブッシュ大統領を徹底してアホに描いていたことが何よりも痛快で笑えたけどね👍
この映画は役者のモノマネ芸が特に素晴らしかったけど、その中でもサム・ロックウェルは見事だったと思います! pic.twitter.com/EqX56zSjhE— ROCKinNET.com (@ROCKinNETcom) 2019年4月7日
副大統領なんて「大統領が死ぬのを待つだけのポジション」だと劇中でも言ってるが、大統領以上の決定権を持っちゃうわけだ。(一元的執政府って三権分立なんか完全無視で全ての権力を大統領に持たせちゃうって法解釈を変えて、ついでに副大統領の権限も広げて、アホなブッシュではなく自分が舵切っちゃおうって!)それも、世界にとっては危機的なことでもチャンスに変えてしまうという発想法で。その危機とは9.11のこと。あれをビジネスチャンスに変えてしまう悪徳さには唖然呆然。
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イラクに大量破壊兵器が無かったなんて今や周知の事実だが、どうしてこんなデタラメな発想が生まれて世間を説得させたか? 不気味なほどにポップに描いてるから趣味が悪い、良い意味でね。
共和党の支持基盤である全米ライフル協会の力で大統領になったブッシュへの恩義のために、チェイニーは銃を買わなければいけない。加えて、彼自身もハリバートンって石油会社のCEOであるので油田を支配したい!
↓
9.11が起きた
↓
犯人は誰だ!真犯人を探し出せ!
というのは表面状の名目で、どうイラクに結び付けるかを考えよう!
↓
だって、戦争できるじゃん!
イラクを犯人にして戦争するっていうのは、イラクに侵攻する際に銃が必要だから全米ライフル協会に義理が返せるのと、油田も手に入るから一石二鳥。しかも、ハリバートンは破壊されたイラクの街並みの修復事業を任されてるから儲かるじゃん!
↓
サダム・フセインのせいにしちまえ!
石油欲しいんだもん!
↓
理由はどうしよ?
↓
イラクに大量破壊兵器があるってことにしよう!
それを、時の政権で支持率の高いパウエルに言わせちゃえば国民も納得するべ?
↓
Let’s Go イラク!
そんな横暴でデタラメなことが実際に起こったのだから凄まじい。何十万人も犠牲にした戦争が、こんな大義名分も無い利己的な権力暴走によるものなのだから言葉も出ない。
開戦報告をするブッシュが無知なまでにイライラして貧乏ゆすりする足を、爆弾が落ちて来ないかと家族でテーブルの下で震えるイラク人の足にシンクロさせる強烈な皮肉。これは強烈だった。こんな馬鹿の命令で爆弾が降ってくる恐怖におののくイラクの民間人が何百万人といるわけだから。でも、こういう描写が出来る、オスカーの作品賞候補になるって事実がアメリカの良心でもあるなと思う。まだ、デバック機能が果たせる証明だから。
何よりも個人的に印象深かったのは、ラストで意識調査のために呼ばれた国民の内の若い女性が、保守派とリベラル派の男性が目の前で殴り合ってるのに、「次の『ワイスピ』楽しみじゃね?」って言っちゃうとこ。国政選挙の投票率が半数しかない日本なんか深刻極まりないが、要は政治の無関心こそ恐怖ってことね。
(文・ROCKinNET.com編集部)
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