桑田佳祐が自身のライフワークの一貫として20年間続けてきたチャリティー活動であるAAA(Act Against AIDS)の最終公演がお馴染みのパシフィコ横浜で開催された。今年のテーマは第三回目となる「ひとり紅白歌合戦」である。これまでも数多くの名曲を歌ってきた桑田佳祐だが、今回を以ってここに完結!ということである。
思い起こせば、このAAAは本当に奇をてらった発想のものが多かった。桑田佳祐が21世紀に残したい曲特集や、ビートルズ特集、英国ロック特集、ディスコ特集など、普段サザンでは垣間見れない桑田佳祐が観れることでも貴重だった。自身を夷撫悶汰(いヴもんた)と称し、ジャズを歌ったAAAは特筆すべきほど評論家たちにも絶賛を浴びた名演だったことも忘れてはならない。ここ10年は無くなったが、12月下旬にサザンとしての年越しを控えながらも、このAAAを12月上旬に開催する常人離れしたスケジュールもこなしていた。そんなAAAが終了する。
近年の桑田佳祐はロックを捨て歌謡曲回帰して甚だしいが、この日も多くが昭和を彩った歌謡曲が大半であった。途中「知らない曲ばかりでごめん」と呟く場面もあったが、過去の産物となりつつある大衆曲を2020年も近い今において歌い継ぐ姿勢に桑田の日本歌謡やロックにおける先代への敬意を感じずにはいられない。
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特に個人的に印象的だったのは、吉田拓郎の「落陽」をレゲエ・アレンジさせたこと。思わず唸る発想だった。桑田はサザンでもそうだが、旧曲を飽きさせずに聴かせるアレンジの努力を惜しまない。いつ聴いても鮮度を保つという点では凄まじいセンスを発揮する。そんな才能が垣間見れた。そして、「修行のような難しい曲を歌います」と、中島美嘉の「雪の華」を完璧に歌い上げたのに鳥肌が立った。この人の凄いところは他人の曲も自身の曲にしてしまう、圧倒的なヴォーカル力と、声色の独自性にあると改めて感じた。こういった昭和歌謡にも敬意を払いつつも、自身とチャートを競ってきた現代の名曲たちにも愛着を持って披露する、世代を超えたステージをこなせるのは桑田佳祐しかいないだろう。
そして、原坊、弘、ムクちゃん、毛ガニが登場し、サザンが勢揃いした。
ムクちゃん(関口)に桑田は「お前誰だっけ?メンディー?」と、とぼけた問いを投げ、冷静に否定するムクちゃん。桑田とムクちゃんの、このツーカーな感じ好きなんだよなぁ。サザンのムードメーカーである毛ガニへの愛のある桑田のツッコミも然り。
ドリフターズの衣装で登場した五人が何を歌うかと言えば、SMAPの「世界に一つだけの花」だった。今やマスコミではSMAPは禁句扱いとされている(現に翌日のワイドショーではSMAPを歌ったことにはどこも触れなかったが)、サザンなら話は別なのか。桑田以外に、原坊、弘は時折ライヴでも歌声を披露するが、普段はヴォーカルを務めない、ムクちゃん、毛ガニも歌ったことがサザンファンとしては嬉しかった。五人で歌う様子が楽しそうで、見ているこっちもニンマリとしてしまう。歌唱後、弘が加藤茶の「ちょっとだけよ」を披露すると、全員でやろうと提案。還暦過ぎた、いい大人五人がステージに横たわって片足上げる様子が微笑ましかった。そんなサザンが愛おしい。余計にサザンを好きになった瞬間だった。
そして、終盤に、追悼の意を込めてか、松任谷由実の「ひこうき雲」の一節をしっとりと歌い上げた後に、西城秀樹の「YMCA」から、桑田が五年間エンディング曲を務めた「ちびまる子ちゃん」の「100万年の幸せ!!」への雪崩れ込むような流れには涙腺が刺激された。そんな感動的な余韻に浸る間もなく、本編最後に“まさかの”カミラ・カベロの「HABANA」の替え歌を披露。「俺のバナナはもう勃たねえ」などという流石の桑田節とも言える下ネタ満載でありながら、しっかり啓蒙活動としてのAAAの役割を果たすメッセージで幕を閉じた。歌謡曲中心ながらも今が旬の洋楽をも取り入れるところに桑田が現役である由縁を感じる。アンコールは、美空ひばりで派手な衣装を身に纏い、巨大な和田アキ子の着ぐるみが登場するなど、お馴染みのドタバタのまま、4時間の長丁場、全55曲を歌い上げた。まさに超人的エンターテイメントを見せつけられた。桑田の妥協無きエンターテイメントの追及には脱帽しかない。
いよいよ来年春には40周年を祝う、サザン史上最大規模の全国ツアーが待ち構えている。
この日の桑田の様子を見ていると不安要素は一切ない。どんなステージになるか俄然楽しみになってきた!
(文・ROCKinNET.com編集部)
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