邦楽

【全曲レビュー】桑田佳祐の最新作『がらくた』が凄過ぎた!大衆音楽ここに極まり!

出典:Amazon

今更な感想なのである。「本当にこの人のアルバムはポップ、ロック、ジャズ、レゲエ、歌謡曲、全ての音楽のエッセンスが入っている」。過去に小林武史氏がこう発言したことがある。「桑田さんのように多様性がないと飽きられてしまう」。まさしく桑田佳祐が才能ある由縁の最たる表現だ。桑田の音楽は聴けば、その“らしさ”が感じ取れるが、ふり幅の大きさ足るや邦楽界随一である。今回の『がらくた』も各々の楽曲のクオリティの高さに感心しながら、様々な音楽を味わえて、満腹感のある作品だった(しかも総収録時間も60数分と15曲のボリュームにしては手短でいい)。

前作『MUSICMAN』も力作であったが、自身の闘病や震災前後のリリースということもあってだろうか、そのメッセージ性のアクの強さが際立っていたようにも感じるが、今回の『がらくた』は、あのような“押し付けがましさ”がなく、作り込まれた楽曲が並んでいるにも拘らず、非常にサッパリしている。個人的には、このサッパリ感こそ大衆音楽、ポップミュージックの理想郷とも言える、受けれ易さの体現だ。この作品を渋谷陽一氏の言葉を借りて形容するとすれば、「僕たちは日常に宝石を見つけることは難しいが、がらくたの素晴らしさを見つけ出すのが、ポップ・ミュージックの役割」(rockin’onJAPAN 2017年10月号より一部改変)であると。桑田ソロの大衆性ここに極まり!といった印象さえ持った。がらくたと語る上でも、ここまでのことをしないと、『がらくた』と言えない。いわゆる、桑田は自ら重荷を背負った決死の作品だということだ。


まさに幕の内弁当のような豪華さ!
多様性を紐解く全曲レビュー!!

1.過ぎ去りし日々(ゴーイング・ダウン)
印象的な歌詞がある《その名もTOP OF THE POPS/栄光のヒストリー/今ではONE OK ROCK/妬むジェラシー》以前から桑田はワンオクを日本イチのロック・バンドと称してきたが、ここでは自分の過去の栄光と照らし合わせながら今の若い才能を引き合いに出す。もちろん嫉妬しているわけである。嬉しい歌詞だ。桑田の貪欲さと、現役感を感じずにはいられない。それを、もろビートルズなサウンドでやってのけてしまうんだから。

2.若い広場

朝ドラ主題歌。ドラマの時代背景が60年代ということで歌謡回帰している桑田が作ると自然とこうなる。桑田はこの曲を「グッド・ナイト・ベイビー」の世界観で作ったという。和製ドゥーワップ的なノリ。今はYOUTUBEで過去とも繋がれるからこそ許される曲だと思っている。桑田の歌謡曲衝動の締め(?)に相応しい曲(これ以上、歌謡曲をやる必要はないと思うので)。しかし、桑田佳祐の登場というのは邦楽界では大事件だったわけで、それまでの日本の歌謡曲の定石を壊した張本人なわけである。要は、阿久悠を過去にしたのは桑田であり、ユーミンだったわけだ。そんな彼が歌謡曲をやる。阿久悠をやる。このアベコベ感って凄いなと思っている。ましてや、こういう歌謡曲を2017年の大衆音楽にする力量が凄まじい。

3.大河の一滴
還暦になった桑田が世の中に放った初めての曲だった。『孤独の太陽』が今出てたら同曲も入ってるだろうなと思えるソロ感。サザンとソロの区別がなくなって久しいが、こういう曲をやるとソロの意味合いが出て良いと思う。

4.簪/かんざし
自分のようなフェス至上主義の人間から見ると、今の邦楽界を取り巻く環境って、どっかん!すっかん!ばかりのロックやポップが持て囃される風潮ってあると思う。けど、「こういう楽曲があるから桑田作品なんだ」と言い切れるジャジーで大人の色気、艶が感じられる、セクシーな曲。

5.愛のプレリュード
ポップ・ソング職人の才能がいかんなく発揮されている楽曲。過去の桑田曲の焼き直し感もあるけど、逆に「そういうの待ってました」と安心感を覚えるのは俺だけだろうか? 桑田が旅行会社のタイアップ楽曲を作ると来たら、こういう感じの曲になる想定内の曲。

6.愛のささくれ~Nobody loves me

ロッキンでも披露された楽曲。《ちょいとそこ行く姐ちゃんがヤバイ》桑田お決まりの譜割からはみ出るような歌詞数で、字余り的に歌うのは桑田の発明。加えて、よく桑田が使用する「姐ちゃん」のフレーズも相まって、冒頭から桑田節が感じられる曲。昔からだが、桑田は青春期にコンプレックスを抱いて、若い頃にモテなかった話をよくする。だから、精神的にプラトニック、ずーっと「還暦ライク・ア・バージン」なんだと。共感できるわ。けど、コンプレックスをこういう形で表現できる男っていいな~。

7.君への手紙
ウッチャン監督映画のための描き下ろし楽曲。桑田は楽曲内で《よくまぁバカが集まったな》と言う。《粋で優しいバカでいろ》ってのもあったっけ。桑田の曲には男同士の絆を感じるモノがある。「バカ」これほど愛情のある呼称はない。結婚報告をライヴでする、結婚式にファンを呼ぶなど、桑田のファンへの想い、仲間意識は本当に格別で、それは今も生き続いていることに感動を覚える。途中の「えんやーとっと」はビートルズの「サージェント・ペパーズ~」からだというのは何となく想像ついてた。

8.サイテーのワル
この曲を書いた桑田に賞賛を贈りたい。ネット世界の暴走、真実の確認を一切しないで、自分達の都合の良い解釈で人を扱き下ろす媒体への桑田なりの意見。某大晦日の音楽番組でのチョビ髭を某政権になぞらえてしまう浅はかな媒体。渋谷陽一氏との対談で、桑田は「人が作る便利なものは人を駄目にする」と言ったが、正しくネット情報ってそういうのに当たるなって思う。マイファスのhiroも某掲示板を痛烈に批判していたが、同意するし、大体の人が感じてる違和感を、こういう重厚なロックで表現した桑田は流石だ!

9.百万本の赤い薔薇
桑田のポップの耳触りの良さの象徴的な楽曲。四つ打ち感とか、明朗なメロディなんかは、正しく今時である。報道番組のテーマ曲として書き下ろされたことにも起因するのかも知れないが、軽快なポップ・ソングの割には、メッセージ性が痛烈なのもいい。《広い世界の果てに/愛と憎しみの雨/ずぶ濡れはいつの日も/弱く儚い命》《「愛と平和」なんてのは/遠い昔の夢か/「強くあれ」と言う前に/己の弱さを知れ》

10.ほととぎす[杜鵑草]
この曲があるのと無いのとで、このアルバムの印象は180度変わっていたかもしれないと思うほど、個人的には素晴らしいと思った曲で、久々に桑田バラードで鳥肌が立った。《星の瞬きより/儚い人生(いのち)と/君と出会って覚えた/砂の粒より小さい運命(さだめ)忍んで》人生の儚さや切なさを、ここまで美しい旋律に仕上げてしまうのだから桑田が抱いている人生観というのは美しいなと思った。

11.オアシスと果樹園

これぞ王道の桑田ソングである。こういう曲が書ける以上、桑田が音楽家として腐ることは無い。そのくらい素晴らしいとワクワクする楽曲だ。「愛のプレリュード」に引き続いた旅行会社のタイアップ曲である。万人受けするだろう、こういう桑田なりの夏のキラーチューンが持つパワーは半端ない。サザンの『葡萄』でいう「アロエ」のように、桑田ファン以外も虜にする求心力を感じる名曲。ロッキンでも披露された時に、ライヴ栄えしていたのが嬉しかった。次のツアーでも中心的な楽曲になることは間違いないだろう、非常に楽しみだ。

12.ヨシ子さん

とにかく賛否両論なのである。個人的には、サウンド的な先進性は圧巻のひと言。そこに「EDMって何?」なんて歌詞を付けちゃう桑田の懐の深さにも脱帽。そもそも、「R&Bって何?」「ヒップホップって何?」と歌ってる桑田だが、「それ、アナタ自身が何十年とやってきたことだろ」って総ツッコミ入れたくなるオフザケ感。むしろ「愛の言霊~Spritual Message~」はじめ、「邦楽にヒップホップ要素取り入れるなどの実験をしてJ-POPの裾野を広げた功労者はアナタだろうが!」と言いたくなる。しかも、《R&Bって何だよ兄ちゃん(Dear Freind)?/HIP HOPっての教せえてよ もう一度(Refrain)》ってきちんと韻を踏んで正当なHIP HOPやりながら、それを「何?教えてよ?」って遊び心が素晴らしい。ただ、音楽番組で行われるパンダメイクの謎の女性とのコントが暴走しがちで、その過剰性が楽曲の素晴らしさを打ち壊してしまっているのが惜しい・・・・・・

この曲のビートは、ジャスティン・ビーバー「SORRY」や、リアーナ「WORK」や、ドレイク「ONE DANCE」など、去年から今年にかけてのグローバルなヒットソングに共通して用いられるダンスホールレゲエのビートを参照している。あくまで、カルヴィン・ハリスやカイゴなどEDM以降のトロピカル・ハウスのムーブメントを経由し、ディプロが牽引する2010年代のダンスホールレゲエ、例えば、昨年大流行したディプロが手掛けた「Lean On (feat. MØ)」を聴けば分かるはず。
引用:http://realsound.jp/2016/07/post-8280.html

13.Yin Yang

三年も前の楽曲を収録するとは意外だった。桑田はサザンの「TSUNAMI」や「HOTEL PACIFIC」もアルバムに入れなかったくらいだから。正直このアルバムに必要かと言われれば、多少の時期的な古臭さを感じるし、今の桑田を語る上での楽曲群の中では浮いている。ただ、「悪戯されて」のようなバリバリの歌謡曲を入れずに、こっちを選んだのは良しとしたい。

14.あなたの夢を見ています
桑田のソロ楽曲でも優れた冬のポップ・ソングだと思っている。が、タイアップも付かず、どんなインタビューでもスルーされがちなのが不思議なくらいだ。要は、当たり障りない桑田ソングってことなのだろうか? 桑田レベルになると、このくらいの楽曲を作るのはサラッと出来てしまうということなのだろうか? 個人的には今回の全国ツアーをやるにあたって、この曲は季節的な意味合いでも重要な存在感を醸し出すと思うのだが。こういう曲が埋没してしまう惜しさすら感じる。

15.春まだ遠く
アルバムのエンディングに相応しいなと。桑田もそれを意識して制作したという。ま、口の悪い言い方すれば、可もなく不可もなくだよね(笑)
こうやって、その楽曲が何の意味を成すのかで制作できるのが桑田の才能だ。今回のツアーが今年の大晦日に終わる時に、「春まだ遠く」と歌われれば説得性も増すだろう。その後のサザンの40周年にシフトチェンジしていくのだろうけど。

main image source:https://www.youtube.com/watch?time_continue=89&v=PtpeHZUh8z8

(文:ROCKinNET.com編集部)
※無断転載は固く禁ずる

 

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