邦楽

月曜から夜遊びでマツコから「非イケメン宣言」受けたMy Hair is Bad椎木が2017年に放った傑作『mother』全曲レビュー!

出典:@MyHairisBad

日本のロック・シーンの未来を背負って(欲しい)と思えるバンドが2016年に現れ(結成はもっとずっと前であるが)、各フェスでも急速に人気を拡大し、年間数百本を超えるライブでも大盛況を見せているMy Hair is Bad。作詞作曲を手掛ける椎木知仁の描く、現代男子の等身大の恋愛観や、ライブで雄叫ぶように繰り出されるMCの熱さが魅力な彼らが2017年リリースされた『mother』が過去作に引けを取らない傑作だったので、是非ともここで紹介したいと思う。

2018年1月15日に放送された「月曜から夜更かし」でJCとJKが選ぶ2018年に流行するものの中にマイヘアが入っており、しかも、「ボーカルの椎木がイケメンと話題に」なんて勝手に紹介されて、マツコから「こんなのがイケメンだって言ってるならスタジオ呼べよ!根性叩き直してやるから!」と言われたことで、違和感を主張するファンが続出している。いやいや・・・・・・誰もイケメン売りなんてしてないんですよ。地上波にありがちな二次情報の暴走ってやつね。Mステにバンドが出た時に必ず紹介VTRで「今チケットが最も取れないバンド」と誰が出ても枕詞のように付けるやつね(笑)

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ま、言っても地上波の影響力は凄まじいので、椎木が勘違い男だと思われないように、援護射撃として、最新作『mother』の全楽曲のレビューの紹介と同時に、マイヘアの素晴らしさを紐解こうと思う。

M-1「復讐」

歌詞の過激性に驚きを隠せないでいた。椎木は同曲を「愛情の歌」と言い切った。けど、偏愛的過ぎるので理解には苦しむし、最高のメロディには勿体無い歌詞だなと思った、正直。椎木自身、メンヘラと呼ばれていることは自覚してるようで、彼女のことを思い過ぎて過呼吸になったことをツイートしてからそう呼ばれたのかなと言っているが、同曲は、そういう“メンヘラ”なキャラクターを逆手にとって、女々しい男のラブソングばかり歌ってる生温いバンドじゃないって、辛口な自己紹介のようにも思える・・・・・・

M-2「熱狂を終え」
マイヘアが現代ロックにおける重要バンドのひとつである由縁はこういう王道的なロックが書けるから。《思い通りに舵を取っていけ/巨大迷路を彷徨え/揺れる決断を楽しめ/ここからが面白い ここからだ》という歌詞に表れてるように、椎木の内に秘めたるパワーが爆発したようなロック足らしめる曲で、椎木の枯渇しない才能を同作内で証明した名曲。生々しさというか衝動的なサウンドが爽快だ。個人的には同作の中で最も彼らしい楽曲だと思うし、最も好きな楽曲である。特にサビの韻を踏みながらの譜割が素晴らしい。

M-3「運命」

椎木の歌詞が素晴らしい理由は、まるで小説のように情景が浮かび上がるリアリティにある。しかも、目に映った物をストレートに描くのではなく、曲に登場する人物の心情を描くという妙技が素晴らしい。《見慣れない短い髪だった/気不味くて珈琲で流し込んだ/でもなぜか味がしなかった/沈黙が続いていた/その瞬間 僕は悟った》聞いてるこちらまでドキドキする。

M-4「関白宣言」
さだまさしが「お前を嫁に貰う前に言っておきたいことがある」と男の一方的な強制的な指示を言い並べたのに対して(最終的に「俺よりも先に死んではいけない」と究極の愛を示すわけだが)、《君の中身がどうだとか/君の見た目がどうだとか/誰になんて言われたってさ/僕はずっと/君といたいんだ 》と女性に対して、ああだこうだとお願いをするわけではなく、どんな理由や事実や評判があろうと、“僕は君が好きだ!”と延々と言うだけの曲にして、おそらく女性が最も言われたい言葉を的確に書いているだろう曲。椎木の彼氏パワー(椎木から放たれる自然体の“彼氏感”のこと)が炸裂してる曲だと思った。

M-5「いつか結婚しても」

《大好きで大切で大事な君には/愛してるなんて言わないぜ》なんて、現代の恋愛模様を的確に表した名台詞は無いだろう。マイヘア史上最高のラブソングだと思う。これこそ現代版の関白宣言なのではないかと思う。《俺の嫌いなものにまで君は優しくて》という歌詞が書ける椎木は間違いなくいい男だ。ちなみに、どうでもいいけど、MVに出ている柳美稀は「動物戦隊ジュウオウジャー」でジュウオウシャークを演じてた娘で、よーく知ってる。印象がガラッと変わって、ますます美人になった。

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M-6「元彼女として」
マイヘアの人気曲「元彼氏として」のアンサー・ソングなのだろうか。M-1「復讐」やM-3「運命」でも描かれていたような面倒な男を捨てる女性視点で描かれた曲。男性が書いたと思えない程に的確である。数多い恋愛経験をしてきたか、恋愛ひとつひとつにおいて様々な想いを巡らし、感受性豊かに過ごしていたからだろうと思う。

M-7「僕の事情」
メジャーデビュー曲「戦争を知らない大人たち」で雷を受けた自分は、マイヘアの魅力は“語り”にあるとおもっている。奥深い意味などどうでもよくて、ただただ言葉選びのセンスに唸ってしまう。そんな言葉の羅列を感情無くして朗読したトラック。後々のM-9「燃える偉人たち」で同歌詞が使用されていることに繋がる、アルバム全編に於けるトリック性ある作りが嬉しい。

M-8「噂」
本来は一曲目にする予定だったと椎木が発言している同曲は50秒にも満たないハイテンポなロックである。駆け落ちという椎木らしい内容の曲ではあるが、こんなに短い曲をアルバムに入れる必要はあるのかと疑問を抱いてから、残りの後半の楽曲が趣を変えて来てるのを知って、この曲の必然を感じる。今回のアルバムが楽曲勝負でなく作品全体で勝負してるということが窺えてくる。

M-9「燃える偉人たち」
偏愛的とかメンヘラとか色々と言われているけど、このバンドの神髄は同曲を聴けば分かると思う。周囲に対する攻撃性をラップとメタルで構成した究極のロック・チューン。以前、メジャーデビュー後に椎木は「レコード会社からたくさんのライブに出ろって言われたけど、それって見ず知らぬのお偉いさんに媚び売ってけってことすか?」といった旨の発言をしていたが、彼はとことん尖っていて、ロックだ。《興味愛想挨拶もなかったのに/手のひら返して smiley smiley ありがとう/その急に湧いて出た愛を貰って歌います/俺の吐いた唾なんか飲んで美味いすか?/なんか笑えるっすね/冗談すよ 冗談》と、話題になって近寄るご都合主義な人間すら突き放す。《言動がいい 行動がいい/印象がいい 血統がいい/流行がいい 同調がいい/もうどうでもいい/ちょうどうでもいい/だからジョークだって ジョーク》とことん媚びない椎木が最高だ! そんな椎木が好きだ! ロックの未来に安堵感を覚える。

M-10「こっちみてきいて」
ヒモ経験のある椎木にしか書けない歌詞である。20代男子の気ままな想いがつらつらと書かれている。思わせぶりな愛情も、ツンと跳ね除ける冷静さも、その両極端な態度も、自分勝手に使い分ける様も、これを「可愛い」と思ってしまうのがバンド好き女の痛いところであるし、椎木はそれを知っている。椎木の女の懐に入るのが巧みであることを証明しているような曲だよな・・・・・・

M-11「永遠の夏休み」
先述の通りにマイヘアの魅力に“語り”がある。しかし、なぜか鳥肌が立ったのは、ここまでの真に迫った語りは初めてだったからだ。《日が暮れて鐘が鳴る/ただそれの繰り返しを》我々は何かから目を伏せて、目を伏せながら笑いながら生きている。繰り返してるだけの快楽の裏には、繰り返しだけじゃいけないという現実のシビアさがあることを、椎木は容赦なく同曲で叫ぶ。《僕はずっと同じところを回っている/そしていつか終わりが必ずやってくる》夏休みが永遠に続く人生であってほしいさ、皆。けど、そうもいかない。楽しく生きていけばいいのに、そうもいかない。九月が来ないようにと願う一方で、九月が来ることを知りながらも誤魔化して生きている。学生時代に就職活動をしていた弱かった自分に聞かせてやりたいような曲だ。

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M-12「幻」
M-3「運命」と同じCDに収録され先行でシングルカットされた曲で、「運命」で描かれていた男性を女性視点で捉えた曲。こっちの方が先に作られていたんだとか。椎木は男女双方の想いを歌詞にするのが実にうまい。けど、それは恋愛において、彼が常に相手がどう思ってるかを気に掛けるような繊細さも持ってるからだと、同曲を聴いて思わずにはいられない。

M-13「シャトルに乗って」
今まで自分のことしか歌ってこなかったくせに、急に世界や人生を歌ったことに驚く。いい意味でマイヘアらしくない楽曲だ。そんな中でも椎木は人生の矛盾を描いた。《街を壊した怪獣は玩具になってる》《犬や猫を撫で他の肉を食べるし》《彼女が妊娠か…なんて頭を抱えてる》このような言葉を羅列する意図は、椎木が同アルバムで実は根本的テーマとして“諸行無常”を描いていることに起因すると思った。マイヘアは恋愛ソング・バンドではない。ロック・バンドである。何かを主張する存在である。しかも、椎木は25歳。若い。しかし、子供でもいられない。若くて呑気な日常の終焉の儚さを憂いているようにも思える。それでも《また生まれ変わっても/君のそばにいる》と締めくくる椎木はかっこいい。

同時に前作『woman’s』から同作『mother』と女性が母親になったタイトルが示すところは、バンド自体が成長したという自己意識(手応え)にあると思った。女々しい恋愛ソングばかり書いてきた椎木の、人生観まで裾野を広げた歌詞の世界観、それを難なく書いたソングライティング・スキルの発達も目を見張るものがある。JCやJKだけではない。全ロック・ファンが、彼らの2018年に注目している。いや、注目すべきだッ!!

(文・ROCKinNET.com編集部)
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