この世に楽園があるとすれば今日の日産スタジアムだったと断言できる感動があった。
ピックスモブがこんなに効果的に使われたライブがあっただろうか。
BUMP OF CHICKEN史上初となるスタジアム・ツアーの最終公演である。
今年は20周年ということもあり、バンド史上最大規模の活動を積極的に行っているバンプ。
彼らほどの多くの支持とキャリアを考えれば、この規模のツアーは既に何度も出来ているはずだ。彼らの場合は敢えてやってこなかったに過ぎない。
それは何故か、彼らは徹底して<非大衆性>を選択してきたからだ。
映画やドラマ等、大手のタイアップが付く時点で大衆バンドじゃないかと思われるかもしれないが、彼らはバンドが大きくなるのを察し、そのムーヴメントに自ら反逆するかのように、どんなに大きな映画やCMのタイアップが付こうが、テレビにも出演せず、プロモーションのなすがままにバンドを巨大化させず、藤原は自分の声を届ける距離感を大事にしてきた。
だから、とりわけ初期の曲は藤原の<内省的な心情>を如実に表しており、直接心に突き刺さる<リアリティ>があった。それがここ数年、バンドの活動が従来の人気に比例した規模感に則ったレベルになると同時に、「ray」「Hello,world!」「虹を待つ人」「Butterfly」と、段々と内省的なものから、外部にメッセージを放出させるようになってきた楽曲が増えてきた気がする。
俺はこの変化を見逃さなかった。定期的に年に一度マイペースに新曲をリリースするだけのバンプが、我々世代を象徴する場所から国民的バンドへの階段を上り始めている・・・それが体現されたのが、この日の日産スタジアムの光景だったと俺は位置づける。その場所に若い世代が付いてくる今のバンプを取り巻く現象!これは彼らにしか成し得ない偉業ではないか?
それを決定づけたのは、新たなスタンダードな楽曲を作り出すんだという強い意志を感じる新作「Butterfly」の楽曲群と旧曲の調和であった。どんなバンドでもいい、10年以上もやってれば、ライブで古い曲はスタンダードとして親しまれ、新曲は異彩を放つ。それが無かった。新旧の楽曲間に、時代や親しみレベルに差が無かった。今日の「天体観測」「supernova」「車輪の唄」に懐しさが微塵も感じられない、ただただ今の彼らが淡々と、伝えたい曲を歌ったに過ぎないだけ。最終日にだけ披露された「アリア」も同じ体温で聴けた、この純粋な伝達法がバンプが音楽を奏でる意味であり普遍性でもあり、楽曲の鮮度を保てる由縁とも思えた。
ライブの中盤、夕暮れ時の7月の空を見て藤原の何気ない言葉。
「僕が好きな夏のこの時間帯の空の明るさ。お祭りが始まる前のワクワクを思い出すような。でも1人だとものすごく寂しくなるんだけど」なんて7万人の中心でこんな叙情的で哀愁的で、でもどこか少年チックな透明感のある澄んだ言葉が言えるミュージシャンがいてくれている思うと、本当に安堵する。続けて、「けど今日はこんなにも多くの人とこの時間を共有できて嬉しいです」と、観客への感謝と謙虚さも忘れないバンプがやっぱり好きだ。
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