ワンダイレクションが活動休止して以来、最もソロ活動が注目されているのはハリーなのではないかと個人的に思う。クリストファー・ノーラン監督作『ダンケルク』の大抜擢で俳優デビューを果たし(台詞の少ない役ではあったが演技の評判も上々)、ファースト・アルバム『HARRY STYLES』も大ヒットし、映画と音楽の両方で十分過ぎる成功を収めた。
そんな彼を初めて見たのは約二年半前(2015年)の1D来日公演だった。さいたまスーパーアリーナという数万人規模のキャパで21世紀を代表するアイドル・ポップ・グループの勢いに圧倒されたのに対し、この日は六本木EXシアターという何百人単位のライヴハウスでの公演である。ハリーにとっても最小規模の公演に違いない。さいたまスーパーアリーナの時も、比較的近い位置で彼らを見ることが出来たが、それ以上に、それこそ目の前の数メートルしか離れていない位置での鑑賞である、これがどれだけ貴重な経験なのか特筆するまでも無い。
当たり前だが、周囲は女性が多い(とは言え、天下のハリー・スタイルズである、目ざとい洋楽ファンの男性も結構いた)、開演時間の90分前から前方を陣取る。待つのが嫌いな性分の自分がよくも何もせずとも90分も待てたなと感心するが(笑)その間、流れていたSEがビートルズやクイーンなど英国を代表するバンドの楽曲だったのが気分を高める。よくよく思えば、彼も1Dも数年後にはこれらのバンドと肩を並べて英国の音楽史に名を刻むスターになるんだろうなとか思いながら、待ちに待った瞬間が訪れた。
暗転と同時にステージに張られた幕に映し出されたハリーのシルエット。耳を劈く様な黄色い声援が一気に上がる。 デビュー作の中でも“ゆったり”とした印象を受けるフォーク・ソング「Ever Since New York」「Two Ghosts」をしっとりと歌い上げる。(曲はしっとりだが、客席は女子がステージ中央に詰め寄って、パンクライヴのような押し合い圧し合いで大変なことになっていた。)
1D時代とは違う見せ方に、彼のソロとしての確固とした方向性を感じ取る。衣装もジーパンにTシャツなどカジュアルだった1Dの時とは真逆で、グレーのスーツでシックに決めている。オールディックな、いでたちからは若手の瑞々しさは微塵も感じない。むしろ、デヴィッド・ボウイや、ミック・ジャガーのような往年のスターのようなエレガントな雰囲気すら感じる。彼が目指しているのはここなのだろう。1Dの他メンバーのリアムやルイがEDMやダンス・チューンを発表している一方で彼だけは、カントリーやフォーク、ロックとアナログなサウンドを重要視していたことからも察することが出来るだろう。
「コンニチワ!ハリーデス!」「チョーカワイイ!」「トイレドコデスカ?」「サケ、モヒトツ、オネガイシマース!」日本語のレパートリーも多くて驚く。その言葉を発するたびに、客席は興奮の坩堝になる。“アノ”元カノから口撃されても一切の不満や反論をしてこなかったハリー。その人柄に同性としても尊敬の念を持っていたが、なぜ彼がここまで世の女性に支持されるのかは、このステージでの振る舞いを見れば一目瞭然だろう。
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後半に披露された1Dのカヴァー「Stockholm Syndrome」、続いて「What Makes You Beautiful」をやるサービス精神。これこそブリット・ロック!と言わんばかりのアレンジをされた同曲たち。
MCでも言っていたが彼にはまだ持ち曲が10曲しかない。その中で何を加えて、何を見せるべきか、観客視点で考えられた選曲には脱帽だ。そこから雪崩れ込む様に披露された、デビュー作収録の「Kiwi」でも観客から大声援が上がる。相当デビュー作を聴き込んできたのだろう、ソロとしてのハリー楽曲に対して、1D時代の名曲以上に声援が起こったことが嬉しかった。
そして、アンコールのラストでやった「Sign of the Times」。デビュー作からのリード曲でもあり、ハリーのソロ活動発表第一発目の曲である。今年のワールド・ツアーでも最重要曲と捉えているであろう同曲の、あまりに壮大過ぎる演奏に圧倒され、ハリーはステージを去って行った。
この日のステージでハリーはポップは一切やらなかった。ギター・バンドとしてステージに立っていた。2010年代最大のポップ・アイコンである彼が、そのイメージを見事に脱却したステージとも言えるだろう。
同時に、彼の音楽的な起源はアイドルではなく、オルタナティブなんだと思った。そんな骨太なロック・ライヴだった。流行に相反することでも、時代の寵児として、アイドルという偶像も崩さずに、アーティスティックな一面も見せる完璧なパフォーマンスを見せたハリー・スタイルズに大拍手だ!
来年は再び幕張メッセという数万人の大規模キャパになって日本にくるが、この日のステージとの至近距離でのライヴの熱狂を体験できたことは嬉しい。
≪SETLIST≫
1. Ever Since New York
2. Two Ghosts
3. Carolina
4. Sweet Creature
5. Only Angel
6. Woman
7. Meet Me In The Hallway
8. Just a Little Bit of Your Heart (アリアナ・グランデ カバー)
9. Stockholm Syndrome (ワン・ダイレクション)
10. What Makes You Beautiful (ワン・ダイレクション)
11. Kiwi
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En1. From The Dining Table
En2. The Chain (フリートウッド・マック カバー)
En3. Sign of the Times
(文・ROCKinNET.com編集部)
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