日本でも興収50億を超える異例の大ヒット
名作『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』や『Ray/レイ』などを抜き去り、音楽伝記映画として歴代トップの興行収入を記録し、ここ日本でも興収50億を超える想定外の特大ヒットを飛ばし、ゴールデン・グローブ賞候補にもなっている『ボヘミアン・ラプソディ』。ツェッペリン等と比較すれば傍流と位置付けられていたはずのクイーンの美談にスポット・ライトを当てたことで、想像だにしなかったカタルシスさえ感じる作品でヒットする理由も何となく分かる気がしている。
ただ、この手の音楽伝記映画が日本でヒットすることは珍しい。
それは、自国の音楽シェアが90%を超える鎖国的な日本の音楽シーンが関係しているだろう。最近ではテイラー・スイフトや、ブルーノ・マーズのようなカリスマ性を持ったポップ・スターが多く登場したせいか、洋楽も相応の比重を占めるようにもなったが、日本人は他国の音楽よりもJ-POP好きな傾向は如実である。しかし、それほど洋楽を聴かない浅いファンでも、クイーンの楽曲は知っているという楽曲認知度の高さが、この映画の興味を惹く要因にもなっていると思われる。
何故ここまでクイーンの楽曲が認知されているのか?
それはクイーンが親日家と言われていたからだと想像するに易い。人気が出るのが本国よりも日本の方が早かったのが理由という人が多いが、実はそれは嘘。1973年のデビュー・アルバム『Queen』は本国ではチャートインすらしておらず、アメリカでちょろちょろの人気が出た程度(83位)、続くセカンド・アルバム『QueenⅡ』で本格的なブレイクを果たすが、本国でチャート5位にまで上り詰めたのに対し、日本では26位と微妙な結果。このことからも、日本で人気が先行していたとは到底思えない。
日本独自の熱狂ぶりにクイーン自身も衝撃を受けた
しかし、当時の日本の音楽雑誌は先見の明があったのか、早い段階からクイーンを大々的に特集していた。そういった僅かながらのアプローチで日本でもツアーをやろうとなったのかも知れない。実際に、1975年に初来日した際には、当時の海外アーティストとしては異例とも言える全国8カ所でのライヴ開催となった。女性を中心とした3000人ものファンが羽田空港に待ち構えており、髪の毛を引っ張られるわ、靴が無くなるわの大騒ぎになり、クイーンは衝撃を受けたと言われている。当時の洋楽ロック・ファンは骨太な男性主導であり、クイーンも例外では無かったが、端正なルックス、華やかな立ち振る舞い、従来の王道ロックとは異なるドラマティックなメロディが女性を惹きつけたのかも知れない。正にアイドル的だった。実際に2014年のサマソニ出演時でも数多くのご高齢の女性が詰め掛けノリノリだったのを見かけた理由が分かる。
劇中で喧嘩したEMI幹部は架空の人物だった
もうひとつ考えられるのが、本国における評論家の辛辣なレビューと契約上のトラブルがあったこと。実際に『ボヘミアン・ラプソディ』ではEMIの幹部と楽曲の長さで喧嘩するシーンが描かれているが、あれは完全なフィクション。そもそも、この幹部であるレイ・フォスターなる人物など存在しない架空のキャラである。しかし、『QueenⅡ』や『Sheer Heart Attack』で商業的成功を収めながらも、彼らには衣装や楽器すら買える報酬が入っていなかったのは事実だったようだ。
親日家というのは紛れもない事実のようだ
そういう周囲との軋轢にも疲弊した結果、外に目を向け、まして自分たちを大歓迎してくれる日本に数度に渡って来るというのも納得はできる。『ボヘミアン・ラプソディ』内でもフレディは日本柄の派手派手しいガウンを着ているのが描かれていたが、実際にも自宅には庭園などが設けられたんだとか。来日時も畳を気に入って持ち帰ろうとしたが、あまりに大きくて断念したというエピソードもある。
新宿二丁目の常連客だったフレディ
また、フレディが行きつけの新宿二丁目のゲイバーやクラブがあったことも大きいだろう。来日の度に「九州男」と呼ばれる老舗のゲイバーやクラブ「NEW SAZAE」に行っては“ただいま”なんて言っていたらしい。彼は店の常連客で、店内には今でもフレディが店主や当時の店子達と撮った写真が飾ってあるそうだ。ゲイであることは最後までメンバーには内緒だったようだが、世界的な成功を収めたフレディは実に数百という同性愛者と体の関係を持っていたと言われており、もしかしたら日本にもお気に入りの彼氏や一晩の相手が存在したかも(笑)※全くの想像であるが。
キムタク主演ドラマでクイーン人気が再燃!
そして、フレディ没後もクイーン人気は日本で続く。決定的なのは04年に放映され最高視聴率28.8%を記録した木村拓哉主演のドラマ「プライド」でクイーンの楽曲が大々的に使われたことでリアルタイムで彼らを知らない新しい世代を中心に人気が再燃。ドラマ挿入歌集であり、日本独自企画のベスト盤でもある『ジュエルズ』が180万枚のヒットを記録する。
主題歌にも起用されたのは、ご存じ「I Was Born To Love You」。ただ、この曲、『ボヘミアン・ラプソディ』の劇中において出て来なかった。「まだかまだか」と待っていた人も多いのでは? というのも、この曲はフレディがソロ転向時にリリースした『Mr. Bad Guy』の収録曲。クイーンの曲ではないのだ。後にクイーン版もあるらしいが、海外ではフレディのソロ楽曲という認識の方が強いようである。本編では出て来なかったが、エンディングで本人映像と共に流れている。やはり、かっこいい曲だなと思った。
このように日本と何かと強い絆で結ばれているクイーン。前回の来日が4年以上前である。おそらく実現するか分からないが、あったとしても次の来日が最後になるだろう。今はアダム・ランバートがヴォーカルを務めているが、生のブライアン・メイと、ロジャー・テイラーを拝める機会はあるのか? 是非とも実現して欲しいものである。
(文・ROCKinNET.com編集部)
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