前代未聞の試みだった。コロナ禍で音楽業界が受けた損失は、たった3ヶ月で6,800億円を超えたという。そして、未だに、その解決の糸口が見出せないでいる。そんな中、サザンがライブを生中継で配信するという、新しい生活様式でのライブを開催した。しかも、その会場が横浜アリーナという規模感。確かに横浜アリーナはサザンにとって聖地と言えるが。この会場でライブが出来るバンドは限られる。ひとつの到達点でもある。そこで、無観客でライブをやってしまうのだから、サザンというバンドが動くことが如何に桁外れか分かるだろう。
今回のサザンのライヴに課されたハードルは次の3つにあると思う。
- まずは42周年というデビュー記念日ライヴとして成立させること
- ライブ配信事業を成功させ、コロナ禍でも産業が潤う指標を示すこと
- 配信でも有料に耐えうるクオリティを成立させること
である。
この全てをサザンはやってのけた。今までのサザンのライヴで多くの感動を貰ってきたが、今回はちょっと違った感動を与えられた気がする。それは、もはや国民的バンドとしての宿命を果たす凄みに圧倒された感覚から来たものと思われる。
「YOU」「ミス・ブランニューデイ」「希望の轍」に始まり、終盤は「匂艶 THE NIGHT CLUB」「エロティカ・セブン」「マンピーのG★SPOT」と畳み掛け(最高の流れ!)「勝手にシンドバッド」まで傾れ込む、幾度となく見てきた楽曲が中心となり(昨年のツアーのコアな見せ方とは真逆な)、王道的な選曲でデビュー記念を印象づける。
また、8つの媒体で閲覧可能とし、18万枚を売り上げたというチケット(推定視聴者は50万人とされ、この数字は全国ドームツアーに匹敵する動員数である)は、1枚3,600円なので、6億4,800万円の売上となる。もちろん、生ライブの方がチケット代は高く、経済効果も多く見込めるだろうが、ライブ配信事業に未来があることの証明を果たした。
そして、何よりも驚いたのが、演出面だ。全国ツアーと比べれば多少の縮小感は否めないが、にしても、横浜アリーナで行われる生ライブと大差のない映像や特攻。会場にいれないのが本当に残念なくらいに、通常運転のサザンのライブがそこにあった。
正しく未曾有のウイルス災害を見事に乗り切った伝説をサザンは作り上げた。
桑田佳祐は以前より「サザンを動かすのは動員やセールスなど大股でしなければならない」「サザンはバンド名というよりプロジェクト名だ」という旨の発言をしている。まさに、今回のコロナ禍での前人未踏のライブ構築は、メンバーはもちろん、スタッフ総動員で挑んだ、心身共に削るだけ削られるアイディアと苦労の結晶だったと思う。
ダンサーもマスク着用だったし、音響も照明スタッフもリアルタイムで動いてて、舞台袖でスタッフが盛り上げようと手拍子する様も映し出される。会場の座椅子には客が座ることがないのに、LEDバンドが1席1席に置かれ、客席の演出も忘れない。相当の労力だ。例え配信でも、ここまで多くの人間が関わる、その原動力とは、結局は「音楽を止めない!」その使命感だけだと感じた。いや、その使命感を果たそうとする彼らの勇姿が輝いて見え、感動したのだった。
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桑田佳祐は「希望の轍」にて≪大変な毎日をご苦労さま/今日は楽しく行きましょう≫と歌詞を変え、「マンピーのG★SPOT」ではアマビエと「疫病退散!」と書かれたヅラを被り登場、「勝手にシンドバッド」では≪いつになればコロナは/終息するのかな?/お互いにそれまでは/グッと我慢の暮らし続けましょう≫と励ます。
最後に、ベースの関口和之が桑田に対して「この男を自粛なんてさせてはならない!」と言ったのも印象的だった。ムクちゃんが舞台上で、このように桑田佳祐にコメントするなんて、異例でもある。だからこそ、本心だろうし。確かに、言われてみればそうだ。桑田佳祐だけではないが、多くの才能が発揮させられない状況が続いている。サザンはライブをする際に、必ず新曲を携えて来る。必ずだ。今回は無かった。無理もないが、サザンの新曲聞きたいよな~。コロナのバカヤロー!と思うと同時に、いつかまた必ず訪れるだろうサザンとの逢瀬を「Keep Smilin’」で、心待ちにしたい。
(文・ROCKinNET.com編集部)
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